『pink』岡崎京子の作品である。
wikiよりあらすじ
主人公のユミは一人暮らしのOL。父と継母とその娘であるケイコ(ユミの腹違いの妹)がいるが、ユミは継母が父の財産目当てで結婚したのを知っているので、継母を母として認める気になれない。ユミはペットのワニをとても大事にしており、やさしくてきれいだったお母さんの爪の色を思い出させてくれるピンクのバラが好き。ワニの餌代を稼ぐため、夜はホテトル嬢として男性の相手をしている。
ユミは継母の愛人である大学生ハルヲとつきあいはじめ、ユミとワニにハルヲとケイコを加えた3人と1匹の間で、ささやかな家族のような幸せな関係が築かれてゆく。しかし、ハルヲがユミとつきあっていることを知った継母の差し向けた使いがワニを誘拐する。ユミはワニのいない味気のない日常に耐えられなくなり、ハルヲが小説で文学賞を受賞することで、その脱出実現の運びが整う。しかし継母はワニを殺し、鰐皮のバッグにしてユミのもとに送りつけ、記者の無理な取材に抵抗したハルヲは路上で車にはねられそのまま死んでしまう。
このマンガにおけるワニの存在とは一体なんだろうか?
まあ、普通に読めば、何を表しているのかは何となく分かるんだけど、あえて言葉にするなら主人公を庇護する移行対象ってことになるんだと思う。
移行対象について大塚英志は
「移行対象」とは発達心理学者ドナルド・ウィニスコットが示した概念で小さな子供が母親から精神的に自立していく過程で「母」もしくはもっとストレートに「乳房」の代わりとして求められる。それは当初、乳児がシーツを口に含んだり、意味不明のフレーズをつぶやくという形で現れ、やがてお気に入りの毛布やぬいぐるみという形をとることもある。
また、大塚は移行対象に関して、ジブリのキャラクターに当てはめ、以下のように細分化している。
⑴主人公に移行対象を与え庇護する「親」を代行するキャラクター
⑵ライナスの毛布や仮の名のように身にまとい主人公を保護するものやアイテム
⑶テディ・ベアや空想の友人のようにキャラクター化されたもの
⑴は千と千尋の神隠しの湯婆婆⑵は千という名⑶はカオナシやトトロである
以上の点を踏まえると『pink』におけるワニは⑶テディ・ベアや空想の友人のようにキャラクター化されたものと考えられるだろう。
また、ジブリのヒロインは圧倒的に暴力的な移行対象を抱えていることが多い。大塚はそのような移行対象を自分が成長することへの不安や恐怖や言語かできない何ものかを宮崎駿は「荒ぶる移行対象」のイメージとしている。
ワニも「荒ぶる移行対象」であったと僕は思う。
『pink』にはこんなセリフがあるのだ。
ワニは見る目があったので気まぐれな御主人様がきっとジャングルにつれていってくれるとみこんでいた
だから多少ハラが立ったりしても御主人様を食べよーとは思わなかった
だけど今の御主人様のジョータイは何だ?
あんな食べてもマズそうな男の上に乗っかってよろこんでいて
ハラも立ったしへっていたのでちょっとかじってやった
本当にジャングルに帰れるんだろうか?
ワニは不安になった
この後のワニの暴走を示唆するようなセリフだと僕は思う。
『千と千尋の神隠し』におけるカオナシの暴走シーンは移行対象の肥大化、それを逃れる千尋を描いた重要なシーンだという。
しかし『pink』では移行対象の暴走が起こる前に、継母がワニを殺してしまう。
あんたが大好きで大嫌いなワニ
生きてんのが窮屈そうだから
あたしが殺してかばんにしてあげたのよ
『pink』の悲劇的なラストは移行対象から逃れることを行わなかった主人公ユミへの最後の成長のチャンスなのだろうか?
なんてことを考えました。あくまで超個人的な解釈ですが。

- 作者:岡崎 京子
- 発売日: 2015/06/10
- メディア: 単行本
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