新井英樹「空也上人がいた」の元ネタ

新井英樹の「空也上人がいた」を読んだ。

「ザワールドイズマイン」「キーチ」のあの新井英樹がなぜ山田太一原作を描くのか!?ということで非常に新井ファンの注目を浴びていた作品だと思う。なんでもホリエモンが代表を務めるマンガHONZで新作1位をとったらしい。

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特別養護老人ホームをやめた中津草介は知り合いのケアマネジャーの中年女性 重光のすすめで吉崎という老人の在宅介護の仕事を始めるのだが、、というストーリー。

新井英樹がなぜこの作品を漫画化したのか?という疑問に作者自らマンガの冒頭で答えている。

狂気が世の中への「反撃」として存在できたのは、まだ世の中が少しは正常だと思えたからで今の狂気の世の中へ喰らわす「反撃」を探すと倫理、道徳ぐらいしかない!

まだ世の中がまともだと思っていた時、新井英樹は「ザワールドイズマイン」や「キーチ」で世の中へ喰らわす狂気を描いたが、それも
もはや現代では通用しない。だって現実が狂気に満ちているからということだ。そんな中で山田太一の原作を読んだ時、なんだおれより人生知ってる人がいるじゃんとなったそうだ。


内容はというと、遠藤周作の世界観に非常に似ていた。というか原作の元ネタなんじゃないかと思う。

実は、草介が特別養護老人ホームをやめたのはある罪の意識からだった。
介護の毎日に疲れ老人をわざと車いすから突き飛ばしてしまったのだ。老人には特に怪我もなかったのだが、数日後亡くなってしまった。老人が死んだのは、草介のせいかはわからない。もともと寿命だった可能性の方が高いのだが、草介は罪の意識にさいなまれる。そんな草介に吉崎は空也上人像を見せる。


ここで描かれる空也上人像は、遠藤周作が考えるイエス・キリスト像と同じだ。ゴルゴダの丘をのぼる惨めなキリスト。皆から蔑まれ罵倒を浴びせられるイエスは、罪深い自分にずっと寄り添って歩いてくれる存在であると遠藤周作の独特の考え方だ。本作の空也上人も正遠藤周作が描くイエスと同じ存在として描かれる。奇跡を起こすでも、赦しを与えてくれるわけでもなく、ただ罪を背負った人間とともに歩んでくれる存在だ。


ちなみに下のインタビューを読んでいて一番びっくりしたのは新井英樹がこの歳になって女装を始めたことだ。honz.jp