村上春樹作品は、まずこの2作品だけを読めばいい。

村上春樹を苦手という人がいる。そういう人に限って、「ノルウェイの森」や初期作から読み始めているように感じる。
正直、村上春樹はこの順番で読めばいい。と思っています。

「1Q84」(2009年発行)

1Q84(BOOK1~3)合本版(新潮文庫)

人には話せない孤独を抱えた天吾と青豆、10歳の時に偶然手を握りしめ見つめ合うが、離れ離れになる。青豆は、スポーツインストラクターであり、女性を苦しめるも裁かれない犯罪者やDVを行う人間を狙う暗殺者となった。予備校で数学を教えながら、小説家でもある天吾は、「ふかえり」という少女の書いた小説をリライトする仕事を頼まれる。主人公青豆と天吾の不思議な物語がはじまる。謎に満ちた世界で、時を超えて二人はめぐり逢うことができるのか?という話

1Q84、BOOK1の第一章「青豆」は、春樹史上、最高の圧倒的リズム感で、これから起こる物語を予感させる。正直、この一章さえ読んでみればいいのである。多分、その後も読めるから。そして、1Q84は天吾と青豆のラブストーリーが物語上の一つのテーマにあり、近年で圧倒的に読みやすくとっつきやすいのだ。二人の物語は、やがて、オウム真理教をモチーフとした(モチーフというかほぼそのままなのだが)物語とつながり、作者が一生をかけて立ち向かうテーマである暴力や無意識の問題と接続される。


ここで、一度過去の作品へ戻りましょう。

「ねじまき鳥クロニクル」(1994年発行)

ねじまき鳥クロニクル―第1部 泥棒かささぎ編―(新潮文庫)

会社を辞めて日々家事を営む「僕」と、雑誌編集者として働く妻「クミコ」の結婚生活は、それなりに平穏に過ぎていた。しかし、飼っていた猫の失跡をきっかけにバランスが少しずつ狂い始め、ある日クミコは僕に何も言わずに姿を消してしまう。僕は奇妙な人々との邂逅を経ながら、やがてクミコの失踪の裏に、彼女の兄「綿谷ノボル」の存在があることを突き止めていく。

村上春樹史上最高傑作の呼び声が高く、超えることができない自身の壁となっているような作品。

部屋の暗闇の中に廊下の光がさっと差し込むのとほとんど同時に、僕らは壁の中に滑り込んだ。壁はまるで巨大なゼリーのように冷たく、どろりとしていた。僕はそれが口の中に入ってこないように、じっと口をつぐんでいなくてはならなかった。やれやれ僕は壁を通り抜けているんだ、と僕は考えた。(ねじまき鳥クロニクル第2部)

村上春樹が、以後の物語創りにおける起爆装置となった有名な「壁抜け」のシーンである。

村上春樹は、平成時代に刊行された本の中から、識者120人が選んだベスト30冊を紹介する朝日新聞「平成の30冊」、1位に「1Q84」、10位に「ねじまき鳥クロニクル」が選ばれた際にこのように語っている。

 昭和の末に『ノルウェイの森』(87年)が思いもよらずベストセラーになって、ストレスフルだった。日本を離れ日本人にも会わず、こもりっきりで、集中して書けた。『ねじまき鳥』は僕にとっても象徴的で意欲的な小説。一番大事なのは『壁抜け』です。主人公が井戸の底でひとりずっと考えていて、別の世界に通じる。深層意識の中に入って行き、出入り口を見つける。『ねじまき鳥』で初めて出てきた『壁抜け』は、小説的な想像力を解き放ち、物語の起爆装置になりました。(朝日新聞「平成の30冊」 村上春樹さんインタビュー 平成を映し、時代と歩む)

本作は、無意識深くで、過去と現在を結びつけるものが「暴力」であり「死」の歴史であるということが、テーマとして初めて現れた作品である。また、社会へのコミットメントを意識した作品であるとして、刊行後のインタビューでも直接自身で明言している。
そして、本作が刊行された1994年以降、村上春樹は、「海辺のカフカ」、「1Q84」、「騎士団長殺し」などで、延々とこの作品の描き直しを行っているように見える。

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