シン・エヴァ 宇多田ヒカルと庵野秀明の対談(インスタライブ)まとめ

 「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」でテーマソングを手掛けた宇多田ヒカルが2021年6月29日にインスタライブで監督の庵野秀明と対談していた貴重なエピソードをまとめてみた。

 宇多田ヒカルは、自身がエヴァファンであることを雑誌のインタビューなどでかねてより、語っていた。2006年の『週刊プレイボーイ』特集「エヴァンゲリオン10年目の真実」において、宇多田は「あまりにも自分と重なる部分が多くて“精神汚染”されちゃう」とエヴァンゲリオンに対する強い共感を語った。それは、14歳でシンジがエヴァに乗らされるように、自身が15歳で音楽業界でデビューさせられ、わけのわからないままダブルミリオンを記録したからだ。

庵野が宇多田に新劇場版テーマソングを依頼した経緯

宇多田さんの音楽は、止まっている僕の中に飛び込んできたんですよ。

庵野:あんまり今の音楽を聴かないんですよ。サントラでできていて、80年代で僕の音楽は止まっちゃってる。でも宇多田さんの音楽は止まっている僕の中に飛び込んできたんですよ。凄い人が来たと僕の中で感じて。アルバムの中に「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(エヴァアニメ版のエンディングソング)があったんですよ。あ、これをなんとか2004年にエヴァのDVDのリニューアルがあった時に、その中に宇多田さんの歌を入れれませんかってレコード会社にお願いしたんだけど、もちろんその時は断られちゃった。
宇多田:ははは(笑)すいません・・
庵野:レコード会社の問題なんで(笑)いいんですけど(笑)新劇場版をやる時にぜひ、宇多田さんにテーマソングをやってほしいと事務所とレコード会社に働きかけて、やってもらって本当に良かったです。「ビューティフルワールド」は本当に素晴らしい曲です。あれの特に僕が好きなのはピアノリフのとこなんですけど、あれが大好きで、普通だったらサビのところを予告に使うんですけど、申し訳無いですけど、あそこを使った。で、フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンも無理言って、入れてもらって、ああこれで新しいエヴァになったんだなって。

シン・エヴァで気づいた 宇多田がエヴァに惹かれた理由

エヴァと共通する「喪失」というテーマ

宇多田:私は今回、映画が完結して、そんなに打合せとかしてないのに、なんか私の唄と庵野さんの作品がなんかあってるなって思うのは、これだからかなって想ったのが、私はあったんですけど、庵野さんは何か共通点って感じたことありますか?私と。
庵野:なんか近い感じがしたことはありましたけどね。唄を聞いたときに。それが何かというと分かりづらい。
宇多田:わたしは人間ドラマとして、エヴァを観ていたんですね。完結して脚本をもらって、曲も作り終えてちょっとした時に。私の曲のテーマが、結局、「喪失」というものにどう向き合うかっていう唄になったんで。ふと、映画を振り返ると、人間が喪失というものにどう向き合うか、なにか欠けてしまったり、失ってしまったものに色んな反応をするじゃないですか。否認とか、受け入れるとか色んな喪失とどう向き合うかっていう大きなテーマがあったから、私も凄く惹かれる作品だったのかなって。私も「喪失」をテーマに曲作りをしてきたから。
庵野:たしかに、「喪失」は大きいテーマですかね。最終的には、「喪失」を受け入れるだけの話なんですよ(笑)
宇多田:うん。それが簡単にはいかないっていう。
庵野:「喪失」から逃げるのをやめて、自分の中に落とし込むっていう話なんですよね。それを描くのにちょっと時間がかかっちゃったなって。自分自身が受け入れるのは、割と前にできてたはずなんだけど、それを表現する方法がなかなかできなかったかなって。

庵野が語る創作論

自分のやりたいことっていうのは、一番うしろにひっこめちゃう。

宇多田:庵野さんの中では個人的には消化できていたことを表現しようと意図的につくられた作品だったってことですか?
庵野:そうですね。シン・エヴァも100%、自分がやりたいものにはなってないんですよ。どうしても映像はやりたいことよりもやれることとか、やらないといけないこととかのほうが、大きいので。普通の映画だと、これに出資社が入ってきて、その言うことを聞かないといけない。
宇多田:はい(笑)
庵野:今回は出資は自分たちの会社でやっているので、それは少ないんですけど。やれることと、スタッフがやりたいことと、観客が欲しているものと。それも大きいんですね。お客さんが何を観たいのかっていうものを自分が探してそれを提供する部分っていうのも娯楽映画なんで大きいんですよ。自分がやりたいことっていうのは、その合間、合間にちょこっと入ったらいいなっていうものでしかないんですよ。それですら、入れることで逆に伝わらないこともある。近しいスタッフですら、分からないということもある。近いスタッフがわからないなら、お客さんももっとわからない。その時点でやめちゃう。自分の表現方法が至らないとおもっちゃうんで。
庵野:僕の場合は、色んな人に誤解されてるんですけど、自分のやりたいことっていうのは、一番うしろにひっこめちゃうんで。まず、お客さんの見たいものですね。時代が変わるとお客さんが見たいものも変わってくる。合わせていくことが、映像作品として、娯楽作品として、商業映画としてはそれが必要なんだと僕は思いますね。そのへんの折り合いをつけるのが大変なんだけど。

宇多田が語る創作論

伝わらないと意味がないと想って創ってるのかなって。

宇多田:やりたいことって、意外と奥にっていうのは、凄いわかりました。私も伝わらないと意味がないと想って創ってるのかなって。あと、芸術って、独創的なものっていうイメージが先行するけど、色んな共通言語の上に成り立っているじゃないですか?
庵野:はい。
宇多田:色んなシンボル(記号)とか、人間みんなが共通して感じている感情とか。だから、わかりやすさみたいなものを重視することを芸術的ではないみたいに捉える人もいると思うんだけど、共通言語というものにどれだけ、客観的にみれるかっていう。そういうお話が聞けて嬉かったです。


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