天才 手塚治虫の凄さがわかるエピソードまとめ

『マンガの神様』と称される手塚治虫は一体何が凄いのか?


現役の漫画家、編集者らが語る手塚治虫の凄さについてのコメントを中心にその凄さに迫ります。

本記事を読むと手塚治虫が「天才」と呼ばれる具体的な理由が分かります。

手塚治虫の凄さを語る声

萩尾望都(漫画家)

『ポーの一族』などで知られ、紫綬褒章まで受賞している天才漫画家、萩尾望都も手塚治虫の影響で漫画を描き始めた。

萩尾は手塚の凄さをこう語る。

スティーヴン・キングやアイザック・アシモフのように稀有なストーリーテラー

萩尾:手塚治虫は紛れもなく稀有なストーリーテラーなのだ。スティーヴン・キングやアイザック・アシモフのように。アイデアと設定、舞台の切り口、敵や味方、キャラの配置。短編、中編、どれもいい。特に長編は見事。(2021/12/27 文藝春秋)

未だに手塚治虫が読まれるのは、絵の技術ではなくストーリーに時を超える普遍性があるからですよね。

描かれるのは勧善懲悪ではなく『相反する2つの価値観の相剋』

萩尾:勧善懲悪の設定はあまりなく、相反する2つの価値観の相剋という複雑な物語が多い。「アドルフに告ぐ」「シュマリ」「陽だまりの樹」など。手塚治虫の脳には次々とアイデアが浮かび、妄想系はフル稼働だろう。(2021/12/27 文藝春秋)

『アドルフに告ぐ』の価値観のぶつかり合いは読んでいて、胸が締めつけられたのを覚えています。

拡散と収縮で、手塚治虫は毎回見事に物語のラストに着地する

四散した枝枝をまとめテーマをギューッと結びあげる。しめ縄を締め上げるように形よく。これがかなりの力業でエネルギーを使う。私も、毎回それで苦労する。拡散と収縮。手塚治虫は毎回見事に着地する。金メダルをとった内村航平のように美しく。「キャプテンKen」「新選組」「ノーマン」どれも美しいラストシーンだ。(2021/12/27 文藝春秋)

手塚治虫の作品でラストが着地できていないものを読んだことがないですね。ぜひ浦沢直樹にも見習ってもらいたいものですね。

島嶋和彦(編集者)

『ドラゴンボール』(鳥山明)を手掛けた伝説の編集者 島嶋和彦は手塚治虫を『マンガの発明家』と評する。

手塚さんがコマ割りを発明した結果、今の日本のマンガがある

島嶋:マンガの発明家だね。手塚さんがコマ割りを発明した結果、今の日本のマンガがある。フランスにはバンドデシネがあり、アメリカにはアメリカンコミックがあるけど、コマ割りはない。だから動きがないし、スピード感がない。日本のマンガはコマの展開で動きを一瞬にして見せられる。(手塚治虫文化賞20周年記念MOOK)

手塚治虫のコマ割りをその後、大友克洋や鳥山明が飛躍的に発展させます。


宮崎駿(映画監督)

ジブリの宮崎駿は、学生時代に漫画を描き始めた頃、どうしても手塚治虫の作品のモノマネになってしまうことに屈辱を感じたのだという。

自分にしみ込んだ手塚の影響をどうやって落とすかが重荷

宮崎:18才を過ぎて自分でまんがを描かなくてはいけないと思ったときに、自分にしみ込んでいる手塚さんの影響をどうやってこそぎ落とすが、ということが大変な重荷になりました。(COMIC BOX手塚治虫特集インタビューより)

描いたものが手塚に似ていると言われ落書きを全部燃やした

宮崎:ぼくは全然真似した覚えはないし実際似ていないんだけど、描いたものが手塚さんに似てると言われました。それは非常に屈辱感があったんです。手塚さんに似ていると自分でも認めざるを得なかった時、箪笥の引き出しにいっぱいにためてあったらくがきを全部燃やしたりした。(COMIC BOX手塚治虫特集インタビューより)

燃やした、、とは宮崎駿らしい凄すぎるエピソードですね(笑)


手塚治虫からの大きな影響を認めている宮崎駿だが、手塚のアニメーションの仕事だけはどうしても気に入らなかったらしく、痛烈に批判している。詳しくはこちらの記事から。
fc0373.hatenablog.com

さいとうたかお(漫画家)

『ゴルゴ13』の作者さいとうたかおは手塚治虫から受けた得も言われぬ影響をこう語っている。

時代が変わっても読み物として通用する凄さ

さいとう:ぼくの漫画家人生は手塚先生を抜きにはあり得なかった。漫画界にぼくを導いてくれた恩人だ。11歳の頃に初めて読んだ「新宝島」の衝撃たるやいかんばかりか…。今までの漫画とはまるで違うまるで映画を見ているようなメリハリのあるコマ割りとスピード感ある展開興奮したのを今でも覚えている。とてつもない天才だと思う手塚先生が亡くなって28年手塚漫画がいまでも読まれているのは話がちゃんとしていれば時代が変わっても読み物として通用する証拠だ(『漫画家が見た手塚治虫』より)

浦沢直樹(漫画家)

Lmagaより

浦沢:小学生のころ、手塚先生の描写を分析していました。「かっこいいー!」って思ったら、そっくりそのままもらっていく。例えば影。

糸井:影によって季節を感じますよね。太陽の位置を。

浦沢:そう。濃ければ濃いほど夏になる。一人の男がどういうふうに地面に立っているのか、その立体空間も出てくる。一生懸命、真似しましたね。

糸井:あ、その視点で浦沢漫画を読んでみたくなった。僕は文章に「ま、」って入れるんです。例えば「今日浦沢さんに会った。ま、前にも会ったことのある人だから」って。これはコピーライターの土屋耕一さんからもらった。「ま、」ひとつで、本気で書いていない文章の感じが出るのが、かっこよくて。

浦沢:なるほど。

糸井:漫画家の方は、目や手の描き方を自分の記号として持っていますが、手塚さんの描く目には変遷があるとか。

浦沢:「ブラック・ジャック」第1回の最初のコマを原画で見ると、目の所に修正の紙が貼ってあり、すかして見ると元は大きな目が描かれていた。あの時手塚先生は、目を小さく描くことで時代とコミットするという挑戦をされていたんだと思う。漫画界の中で、手塚先生ほど絵柄が変わった方はいないんじゃないかな。

糸井:変わることで、「手塚治虫」であり続けたんですね。(2016年6月18日 AERA dotより)

立川談志

 
落語家の立川談志は、客に嫌われたって手塚治虫さえいてくれればいいと言い切るほど手塚を尊敬していた。

天才的なセンスの根本には落語があると思った

とにかく衝撃でしたよ。『新宝島』を読んだときは。これはスゴイ、と。で、手塚先生のマンガを二、三冊読むうちにね、アッ、この人のセンスには落語があるなって思ったの、駄洒落があって、オチがあって。(立川談志インタビュー 我が心の手塚治虫先生)

読む人のことを考えて、ちゃんとわかりやすい漫画を描ける

立川:もしも手塚先生が私みたいに横暴だったら、イリュージョンの部分が大きくなって、もっとわけのわかんないもの描いてたと思いますよ。『ばるぼら』や『I・L』なんかは、わかんないもの描こうとして、先生自身が悩んだ時期の作品じゃないかと、私は思いますがね。でも、結局は『ブラックジャック』や『七色いんこ』みたいに、わかりやすいマンガを描くんだ、手塚先生は。読む人のことをちゃんと考えてますね。優しいんですよ、アノ天才は。(立川談志インタビュー 我が心の手塚治虫先生)

太田光

アイデアがバーゲンセールのように湧き出る天才

太田:僕らは漫才でネタがないときがしょっちゅうなのに(手塚は)アイデアがバーゲンセールのようにわき出る。それは苦しくもあり、アイデアがありすぎて生きている間に(マンガを描くことが)間に合わない。天才ってそういうもの。レベルが違うと思った。(2013/6/25MANTANWEB)

ギレルモ・デル・トロ(映画監督)

『パシフィック・リム』『シェイプ・オブ・ウォーター』で知られるギレルモ・デル・トロも手塚治虫から大きな影響を受けた作家の1人だ。

ギレルモ・デル・トロは手塚の凄さについて、自身の作品『ピノキオ』を引き合いに出してこう語っている。

ギレルモ:『ピノキオ』に関しては、多分に手塚治虫の影響が強い。彼は童話のなかにある暗さをよく理解していて、他の人とはずいぶん異なる作品をたくさん作った。僕の『ピノキオ』も、ムッソリーニ政権のファシストの時代を背景にするから、これまで作られたピノキオのアニメとはだいぶ異なると思う。(2018/12/10 映画.com)

手塚治虫の凄さがわかるエピソードまとめ

7本同時に連載をしていた

どれだけ多くても2、3本の掛け持ちが限界だと言われるマンガ連載。

手塚はまったく違うジャンルのマンガを7本同時にまわしていたことがあるという。

尋常ではない忙しさの中で、手塚は授賞式やメディア出演までこなしていた。

手塚は、考えられないタスク量をとにかく「素早く動くこと」でこなしていたという。

手塚のアシスタント経験のある漫画家 石塚啓はこう語る。

いつも早足で「パタパタパタパタ......」ってスリッパやサンダルの音がするんです。しかも決して運動神経がいい人の早足じゃないの。そういうところは、手塚先生の愛らしいところなんです。(虫ん坊 私と手塚治虫第2回)

手塚治虫は、まるで現代の商社マンや広告マンのように、歩くスピードすら早くして、タスクをこなし続けていたんですね。

作品の資料本は1ページ1秒で読む

7本も同時に連載する手塚治虫にはとにかく時間がない。

作品の資料となる本も1ページ1秒で読んでいたというから驚きだ。

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