冨樫義博の休載の本当の理由 20代の頃から続く病気と連載の苦しみ

 『幽遊白書』『HUNTER×HUNTER』で知られる冨樫義博の休載の本当の理由 20代の頃から続く病気と連載の苦しみについてまとめてみた。

冨樫義博の休載と病気の歴史

『幽遊白書』連載時代(1990~1994年)

 『幽遊白書』『レベルE』で冨樫義博のアシスタントを長年務めた味野くにおは、冨樫が腰痛と戦いながら連載に取り組んでいたと『先生白書』の中で語っている。『先生白書』とは味野くにおが、天才冨樫義博の売れていく過程をアシスタントの立場から見た実録マンガである。

先生白書

先生白書

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 ある日、味野が仕事場に行くとうつ伏せ状態でマンガを描いている冨樫を発見したという。大ヒットとなった『幽遊白書』の連載中、冨樫が20代の頃のできことであったという。

 腰痛は『HUNTER×HUNTER』連載の今も続く冨樫の持病の一つである。

 冨樫は『幽遊白書』の連載終了後にJUMPに無断でコミケで売ったオリジナル同人誌の最後にある「敗北宣言」という文章で連載当時の徹夜作業などで起きた体の不調に関して赤裸々に語っている。

冨樫:RPGで言うところのHPは確実に減っていたようで、読み切り31P・巻頭カラーがたて続けに来たあたりで徹夜をすると心臓に痛みが走り出すようになり、徐々にその間隔が縮まってくるようになりやがりました。その頃ちょっと真剣に制作のペースについて考えるようになりました。「規則正しい生活はムリにしても寝たい時にきっちり寝て描いたら、どの位のペースで仕事が出来るだろうか。」と。実行しました。原稿がみるみる遅れ出しました。しかしできる限り徹夜はさけました。この頃から仕事としてのマンガへのとりくみ方が変わってきました。(冨樫義博「敗北宣言」より)

冨樫:仕事で過労死はやだ。 ポックリいくなら遊んでいるときか趣味で原稿描いてるときがいい。カラー原稿こわい。読み切りこわい。(冨樫義博「敗北宣言」より)

 体の不調の中、満足いかないできの原稿に冨樫はアシスタントに仕事を振らずに自分ひとりで描くことで自己満足していたとも語っている。

冨樫:幽遊白書の連載中、何回か一人で原稿を上げたことがあります。全てストレスがピークに達している時です。理解してもらえるかわかりませんが、原稿が満足にできないことによって生じるストレスを解消する方法が「一人で原稿を仕上げること」なんです。その結果その週の原稿は惨々たるものでした。背景も人物もなぐり描きです。読み切りのツーショット、鴉vs蔵馬、幽助vs仙水、幽助と雷禅が対面する回はほとんど一人で描きました。後半の2話はあるハガキの批判の通り、落ちる寸前の半日で19枚仕上げたものです。プロ失格かもしれませんがそれでも自己満足していました。すでにその時「人がどう思おうがどんなに荒れた原稿になろうが一人で描きたいもんは描きたいんだ。」という気持ちを押さえる理由が失くなっていたのです。(冨樫義博「敗北宣言」より)

『HUNTER×HUNTER』連載時代1998年~現在)

本作は休載期間が非常に長く、1999年以降は毎年10回以上休載している。連載が再開されるときはネットニュースに掲載されるなど、話題となる現象が未だ続いている。

 そして、2022年7月6日冨樫は35周年記念の展覧会に『HUNTER×HUNTER』2年間の休載理由を直筆メッセージで寄せている。

冨樫:私自身思っておりますよ。「いや話の続き描けよ。」って思われてんだろうなと。確かに2年ほど椅子に座れない状態で描けませんでしたが、従来のやり方をあきらめることで現在は何とか執筆を再開しております。皆さま、くれぐれも腰は大切に。これを書いている2週間前までお尻をふく姿勢がとれず、ウンコするたびシャワー浴びてました。あらゆる動作が常人の3~5倍時間がかかります。腰大事(「冨樫義博展 -PUZZLE-」直筆メッセージより)

冨樫に共感する関係者の声

 ここでは、そんな苦しみを抱えながら連載を続けてきた冨樫義博への関係者の共感の声をまとめてみる。

岡田斗司夫(評論家)

岡田:冨樫さんの『HUNTER×HUNTER』が休んでしまうのを俺は悲しみながらも「冨樫、何やってんだ!」って言わないのは何でかっていうと、あの人も週に7日・16時間描く体制を整えたんだけども体がついていかなくなっただけなんだ。(『岡田斗司夫ゼミ』より)

山田玲司(漫画家・評論家)

 冨樫義博と同期デビューである漫画家の山田玲司は冨樫はもともと「良い絵を描きたかった漫画家」だと語り、腰痛で描けない苦しみに共感している。

冨樫はいい絵が描きたかった側の人なの。描きたいのにあの過酷な状況で描けなかったっていうのに、ずっと苦しんでた人間なのね。調べれば調べるほどさ、その苦しみ方っていうのが尋常じゃなくて…やっぱつらいよね。(『山田玲司のヤングサンデー』より)

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