『シン・仮面ライダー』はガッカリ?批評家の評価まとめ

 シン・シリーズ最大のガッカリ作品と呼ばれている『シン・仮面ライダー』に関する批評家の評価の声をまとめてみた。

シン・仮面ライダー公式サイトより

岡田斗司夫(評論家)

岡田斗司夫チャンネルより

 岡田は、本作を85点とあまり評価していない。シン・シリーズの岡田の採点は、『シン・ゴジラ』93点、『シン・エヴァンゲリオン』90点、『シン・ウルトラマン』88点である。

 

庵野秀明が撮りたい映画を撮ってほしかった

岡田:『シン・仮面ライダー』のパンフレットを見たらですね。総監督庵野秀明の言葉っていうのがあってですね。僕の考えた仮面ライダーを作りたいではなく、仮面ライダーという作品に恩返しをしたいっていう風に書いてあったんですけども、もう恩返しを理由にするような映画はもう二度と撮らなくていいと思うんですけどね。自分の取りたい映画撮ってほしいですよ。

柳下毅一郎(映画評論家)

ラジオデイズより

 柳下は本作への疑問として、様々な演出が庵野秀明のフェティッシュ(偏愛・こだわり)なのか映画として必要な本質なのか区別がつかないことを挙げている。
 
 また、個々のオマージュやこだわりは良く分かるが映画全体として捉えた時に一体何がポイントなのか、よくわからない点に本作の弱さがあるとしている。

 

画面に人が出てこないのは何故なのか?

柳下:金が無いからじゃないと思うんですけど、あまりに人がいないんで。映画、画面の中に。全然、人が出てこないじゃないですか。貧乏じゃないと思うんですけど(笑)そういう形の貧乏さとはちょっと違うぐらいの。(2023年3月24日 YouTube BLACKHOLEより)

本作でも一貫して「俳優の演技」を信用してない

柳下:庵野さんは、一貫して俳優を信じてない。これは最大の欠点で。昔からそうで、それが常に実写映画を作る時の問題。演技をさせることを嫌うんですね。だから完全に今回棒読みのセリフで、熱量のない芝居っていうのは統一されてるので。これに関してはどう考えてもフェティッシュではないので、何か意図があったと思うんですよ。改造人間だから?なのかな。(2023年3月24日 YouTube BLACKHOLEより)

あまりにも決まりすぎた画面の構成・構図

柳下:画面の構成、構図をがっちり決めてくる。それはもちろんいいし、多分得意なところですよね。アニメ監督としても得意なところ。でも逆にそれがあまりにも静止画みたいな画になってしまって、そっちに引きずられているせいで、動きがないというか、カットとカットが繋がらないみたいな。(2023年3月24日 YouTube BLACKHOLEより)

柳下:『エヴァンゲリオン』の時も思ったんだけど、固定した画面の力はいいんだけど、映画として見ると本当に画コンテを見てるみたいな感じ。(2023年3月24日 YouTube BLACKHOLEより)

宇野常寛(評論家)

 宇野は、仮面ライダーファンとして面白く見れたとしながらも、平成の『仮面ライダークウガ』や『アギト』が仮面ライダーという枠を超えた面白さを持てたのと対象的に、『シン・仮面ライダー』は単に「面白い仮面ライダー」にとどまっているとの評価。
 

『シン・ゴジラ』からくる期待は完全に裏切ってる

 宇野は、まず『シン・ゴジラ』の評価をこう語る。

宇野:アニメの脚本のノウハウだったり、ドキュメンタリー性や、震災・原発事故の比喩を新しく考えて、失われた30年の政治体制への気の利いた皮肉をシナリオの中核に置くとか。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

宇野:(シン・ゴジラは)『怪獣映画』ではなく、一本の日本映画として突き抜けたものがあったと思うんだよね。それを『シン・ウルトラマン』にも『シン・仮面ライダー』にも期待してたと思うんだよね。それは完全に裏切ってるよね。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

悪として成立していないシナリオの問題点

 宇野は、本作の問題点として、蝶オーグの存在や思想がこの時代に悪としての意味を持たいないということを挙げている。

宇野:敵を描けないというのは、ヒーローとは何かも語れないという欠かせないテーマ。そこを追求する能力も無ければ、動機も庵野秀明にはないということなんだよね。結局、蝶オーグがやりたかったのって人類補完計画でしょ?(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

宇野:登場人物の動機はすべて幼児期のトラウマで、それを人類補完計画的な心理学的な自己啓発セミナー的な回収という形でしか、物語がつくれないんだよ。そんな安直な回収はダメだよっていうストーリーしかつくれない。もうそれは終わった問題でしょ!?人間の闇=心のトラウマとか、馬鹿でしょ!!(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

成馬零一(ドラマ評論家)


ジャンクな映像をアングルと編集の面白さで突破してるだけ

成馬:やってることは『ラブ&ポップ』の時から変わらないんだけど、ジャンクな映像をアングルと編集の面白さで突破する。それって凄くテレビ的な発想で、堤幸彦さんがやっていたことに近いですよね。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

 さらに成馬は、庵野秀明はアニメだと世界最高峰のレベルの映像がつくれるのに、なぜ実写ではチープな志向になってしまうのか?と疑問を呈している。

不思議なのは、アニメだとキューブリックとかクリストファー・ノーランみたいに高画質の世界的レベルに届く映像を作り上げる力があるのに実写になると、ジャンクな思考になってしまうんですよね。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

チープな映像は幼少期の記憶の再現

 とはいえ、庵野はわざとチープな映像をつくりあげていると成馬は分析しながらも、「観客はそんなものに付き合う必要はない」と批判している。

成馬:チープな映像は、仮面ライダーとかウルトラマンとか見てワクワクした感覚への原体験やオマージュを映像という形で刻印してわざとやってる。ー中略ーでも、それに付き合う必要ないじゃないですか、こっちは(笑)(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

『仮面ライダー』の再評価の試みは成功している

成馬:庵野監督の趣味が全開の作品として見たら、それは面白いし。昔の仮面ライダーを見てもらう作品として考えても、(自分は)漫画版も買ったし、初期のショッカーの前日譚も読んだので、俺なんかには届いてる。『仮面ライダー』を再評価したり、資料を残すっていう意味では成功している。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

シン・シリーズに期待していたものとは何だったか?

 成馬はシン・シリーズに期待していたのは、『シン・ゴジラ』で描かれたような社会性を刻印した作品だったと言う。

成馬:そこに何求めていたかというと、マーヴェルのヒーロー映画とか、バットマンの『ダークナイト』とか、ああいう水準のヒーローものを日本で再構築して世界にも届く映像作品にするとか、そういうことをみんな漠然と期待してたと思うんですよ。それは何か今回ので無理なんだって結構わかっちゃった。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

成馬:チープな映像と社会性の無さの逆ですよ。今の水準のカメラを使って、社会性のあるテーマを持ち込む。それをやろうとして、できたかは別として、方向性としてあったのは『仮面ライダーBlack Sun』。カウンターとして『Black Sun』があることで、何が足りないのかよく分かる。石ノ森章太郎版の『仮面ライダー』をやろうとして、削ってるものがある。70年代の社会性で。公害とか広島で被爆した少年とか出てきてめちゃくちゃ社会派なんですよ。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

成馬:ウルトラマンも沖縄戦とか、マイノリティとしての怪獣とか、ごっそり削ぎ落とされてたんですよ。社会性を削ぎ落としちゃう感じが、庵野監督の『エヴァンゲリオン』以降はむしろそれが評価されてたんだけど、世の中が震災以降反転しちゃったというか。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

石岡良治(批評家・早稲田大学准教授)

CINRAより

造形物は圧倒的によくできている

石岡:『シン・ウルトラマン』より悪くないなと思って見てました。何かっていうと、造形物。造形物をどう見せるかっていうところまでは意思がある。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

小ネタの伏線回収が足りない

石岡:カットとカットをどう繋ぐかっていう意思やシナリオをどうするっていうところは悲しくなっちゃうんですよ。その一つが、せっかくサイクロン号君がちょこちょこ着いてきてくれてるのに、後半良いところでヒューン!とやってくるとかさ(笑)(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

石岡:ガイナックス時代の庵野秀明は、(伏線回収)そういうのを良くやる人だったんだよね。(2023年3月24日 YouTube PLANETS批評座談会 より)

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【参考動画】
批評座談会〈シン・仮面ライダー〉 - YouTube
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