天才作家 村上龍の凄さ
村上龍の実績・経歴
✅️文学史を塗り替えた『限りなく透明に近いブルー』でデビュー
村上は24才で『限りなく透明に近いブルー』を著し芥川賞を受賞。同作は評論家に絶賛され、芥川賞受賞作品史上最大の367万部の大ベストセラーとなる。
物事を常に客観視して、感情移入を排したフラットな文章表現は、「衝撃的に新しい」と評された。
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蝿よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回してくらい部屋の隅へと見えなくなった。(限りなく透明に近いブルー)
✅️『コインロッカー・ベイビーズ』で日本文学の頂点へ
村上は1980年に起きた「コインロッカー幼児置き去り事件」に着想を得て、2人の孤児が都市に復讐する物語『コインロッカー・ベイビーズ』を描いた。
本作の内容は世間に衝撃を与え、その後のクリエイター全般に大きな影響を与えることとなった。
村上龍を称賛する声
村上春樹(小説家)
村上春樹は、同世代の作家であり友人でもあった村上龍から大きな影響を受けた1人だ。
春樹は龍の『コインロッカーベイビーズ』のストーリーテリングの凄さに衝撃を受け、小説執筆のかたわら営んでいたジャズ喫茶を廃業。
作家専業となり、書き上げたのがあの『羊をめぐる冒険』だという。
村上は、『コインロッカーベイビーズ』から受けた衝撃をこう語っている。
村上:僕はその小説の有する長編小説的エネルギーーそれは他の何者によっても代換されえないものだーに揺り動かされたし、それが僕にとってもかなりの創作の刺激になったと思う。
金原ひとみ(小説家)
『蛇とピアス』で芥川賞を受賞した金原ひとみも村上龍から大きな影響を受けた1人だ。
金原はメディアのインタビューで人生で最も影響を受けた本として、村上の『コインロッカー・ベイビーズ』を挙げている。
金原は、『コインロッカー・ベイビーズ』を読んでいる間、自分自身が小説に蹂躙される、犯されるような気持ちになったと語っている。
金原にとってそれは、小説によって現実の自分が変えられる強烈な読書体験だった。
現実の自分が蹂躙されるような読書体験
金原:なにかこう、自分の中にずけずけと入ってくるようなそういう強烈なものがあったんです。読んでると現実の自分が揺るがされていく様な気持ちがして怖くなる体験だった(私の一冊、日本の100冊 NHK)
吉本隆明(評論家)
評論家の吉本隆明も村上龍を天才と評している。
吉本は『料理小説』のサブジェクト5
料理小説のサブジェクト5っていう作品をお読みになってご覧になれば、本屋さんで立ち読みしても大丈夫ですから、12,3枚ですから、見ますと、この作品は読んでいるかぎりは、この人はちょっと天才じゃないかっていう作品です。
12,3枚でそういうふうに読めます。(講演:文学の戦後と現在-三島由紀夫、村上春樹、村上龍をめぐって)
対象選択力の強力さっていうことです。
それの文体っていうことと、それからもうひとつ、文学作品をオーディオの世界とか、絵画の世界とか、つまり、目と耳って言ったらいいんでしょうか、それと同じようにつくるっていう方法を、完全に意識的に編み出したって、ぼくは思います。(講演:文学の戦後と現在-三島由紀夫、村上春樹、村上龍をめぐって)
豊崎由美(書評家)
豊崎:(『限りなく透明に近いブルー』の)リュウの視線の、世界とか現実の上に薄いヴェールが被さっているような感覚って、強烈に新しかったよね。現代人にとっての日常感覚として圧倒的にリアルというか。(百年の誤読)
SKY-HI(ラッパー)
読み始めてみると、最初は狩猟の話が続いて、「一体これは何の話なんだろう…」と少し戸惑ったのですが、途中からどんどん引き込まれていって、上巻の途中でガツンとものすごい衝撃を食らったんです。
読んでいて僕が夢中になったのが、主人公の鈴原冬二が群衆に向かってスピーチをするシーン。光景がリアルに頭の中に浮かんできて、それがあまりにもかっこよくて、言葉を失いました。ここまで本の中に引き込まれたのは、後にも先にもこの時だけでした。(2023/10/4 日経BOOK PLUS)
村上龍に影響を受けた作品
『新世紀エヴァンゲリオン』
庵野秀明は、村上の『愛と幻想のファシズム』から大きな影響を受けて『新世紀エヴァンゲリオン』を構想したことを『スキゾ・エヴァンゲリオン』のインタビューで語っている。
『愛と幻想のファシズム』の、母なる日本を犯して、父を殺すというエディプスコンプレックスのテーマを庵野は、そのまま『エヴァンゲリオン』に反映させている。
『エヴァンゲリオン』では、主人公シンジのオリジナルの母親はロボットで、同年代の母親として綾波レイが横にいる。実際の父親と、全体を司るアダムがもうひとりの父親として存在している。
庵野はそんな多重構造の中でシンジが父を乗り越えるエディプス・コンプレックスをテーマとした。
庵野:そういう多重構造の中でのエディプス・コンプレックスなんですよ。やりたいのはそこだった。『愛と幻想のファシズム』なんです。(『スキゾ・エヴァンゲリオン』)