村上春樹が作家人生で大きな影響を受けておすすめする本まとめ

 村上春樹が作家人生で影響を受けておすすめする本をまとめてみた。

人生で巡り合ったもっとも重要な3冊

 村上は、人生で巡り合ったもっとも重要な本として3冊を上げている。

村上:もし『これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ』と言われたら、考えるまでもなく答えは決まっている。この『グレート・ギャツビー』と、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』と、レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』である。(『グレート・ギャツビー』村上春樹訳 あとがきより)

①『グレート・ギャツビー』(スコット・フィッツジェラルド)


『グレート・ギャツビー』内容
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ただ恋を成就させるため、巨万の富を築いた男。
虚栄に満ちた人生の儚さを描く、アメリカ文学の代表的傑作。

豪奢な邸宅に住み、絢爛たる栄華に生きる謎の男ギャツビー。彼の胸にはかつて一途に愛情を捧げ、失った恋人デイズィへの異常な執念が育まれていた……。
第一次世界大戦後のニューヨーク郊外を舞台に、狂おしいまでにひたむきな情熱に駆られた男の悲劇的な生涯を描き、何度も映画化された20世紀文学最大の問題作。滅びゆくものの美しさと、青春の憂愁を華やかに謳いあげる世界文学の最高峰。(BOOKデータベースより)
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 村上は『グレート・ギャツビー』作者スコット・フィッツジェラルドから得た大きな影響を一作目の長編作『風の歌を聴け』の群像新人文学賞受賞の言葉で語っている。

村上:学校を出て以来殆どペンを取ったこともなかったので、初めのうち文章を書くのにひどく手間取った。フィッツジェラルドの「他人と違う何かを語りたければ、他人と違った言葉で語れ」という文句だけが僕の頼りだったけれど(村上春樹 群像新人文学賞受賞の言葉より)

村上:半世紀以上の歳月を経て、今なお多くの読者がフィッツジェラルドの作品群に惹きつけられる最大の理由は、その「滅びの美学」にではなく、おそらくはそれを凌駕する「救済の確信」にあるはずだと僕は考えている。


②『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)

『カラマーゾフの兄弟』内容
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物欲の権化のような父フョードル・カラマーゾフの血を、それぞれ相異なりながらも色濃く引いた三人の兄弟。放蕩無頼な情熱漢ドミートリイ、冷徹な知性人イワン、敬虔な修道者で物語の主人公であるアリョーシャ。そして、フョードルの私生児と噂されるスメルジャコフ。これらの人物の交錯が作り出す愛憎の地獄図絵の中に、神と人間という根本問題を据え置いた世界文学屈指の名作。(BOOKデータベースより)
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 村上春樹は『カラマーゾフの兄弟』をこう評している。

村上:世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことのない人だ。(村上春樹訳『ペット・サウンズ』あとがき より)


③『ロング・グッドバイ』(レイモンド・チャンドラー)

『ロング・グッドバイ』内容
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私立探偵のフィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。あり余る富に囲まれていながら、男はどこか暗い蔭を宿していた。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。が、その裏には悲しくも奥深い真相が隠されていた……(BOOKデータベースより)
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 村上春樹は『ロング・グッドバイ』をこう評している。

村上:チャンドラーの『ロング・グッドバイ(長いお別れ)』を最初に読んだのは高校生のときだった。正確には覚えていないのだが(当時あまりにも多くの数の本を読んでいたので、記憶は混濁している)、たぶん十六歳か十七歳くらいだったと思う。それ以来四十年ほどにわたって、折に触れてはこの本を繰り返し手にとってきた。(村上春樹訳『ロング・グッドバイ』あとがき より)

村上:この小説はストラクチャーについてはレイモンド・チャンドラーの小説の影響を色濃く受けています。僕は彼の小説の熱心な読者で、幾つかの作品は何度も読み返しました。だから僕はこの小説の中で、その小説的構図を使ってみようと思ったのです。まず第一に主人公が孤独な都市生活者であること。それから、彼が何かを探そうとしているうちに、様々な複雑な状況に巻き込まれていくこと。そして彼がその何かをついに見つけたときには、既に失われてしまっていることです。これは明らかにチャンドラーの用いた手法です。僕はそのような構図を使用して、この『羊をめぐる冒険』という小説を書きました。(1992年バークレーでの講演にて)

影響を受けた本・作家

■『城』(フランツ・カフカ)

『城』内容
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測量師のKは深い雪の中に横たわる村に到着するが、仕事を依頼された城の伯爵家からは何の連絡もない。村での生活が始まると、村長に翻弄されたり、正体不明の助手をつけられたり、はては宿屋の酒場で働く女性と同棲する羽目に陥る。しかし、神秘的な“城"は外来者Kに対して永遠にその門を開こうとしない……。職業が人間の唯一の存在形式となった現代人の疎外された姿を抉り出す。(BOOKデータベースより)
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 村上はフランツ・カフカ賞受賞スピーチでカフカの『城』をこう評している。

村上:僕は少年時代にカフカの『城』という小説を読んで、その世界にはまり込んでしまいました。そのとき、二十世紀初頭のチェコの名もない田舎町は、僕にとって何よりリアルなものとして感じられました。
  物語の目的とは、今ここにある現実とは離れたところにある現実からものごとを運んできて、それによって、今ここにある現実をよりリアルに、より鮮やかに再現することにあります。その原理はどこの国でも、どの時代でも変わりません。だからこそ良き物語は翻訳可能であるし、翻訳されるだけの価値があるのです。僕はそう信じています。
(フランツ・カフカ賞受賞スピーチ地域も時代をも超える文化の力を信じて 村上春樹受賞スピーチ | 国際交流基金ウェブマガジン「をちこち」より)

■カート・ヴォネガット作品

 村上春樹はカート・ヴォネガットの短い章立てと心理描写の排除を参考にデビュー作「風の歌を聴け」を書き上げたことは有名だ。

村上:日本のいわゆる「純文学」はリアリズムの文体、心理描写がメインです。面倒なことを面倒に書くわけです。(中略)でも大学時代にリチャード・ブローティガンとかカート・ヴォネガットとかを読んだことで、心理描写みたいなことなしでも小説はまっとうに書けるんだと、目をひらかれたんです。(1979年 『群像』より)

『スローターハウス5』内容
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主人公ビリーが経験する、けいれん的時間旅行! ドレスデン一九四五年、トラルファマドール星動物園、ニューヨーク一九五五年、ニュー・シカゴ一九七六年……断片的人生を発作的に繰り返しつつ明らかにされる歴史のアイロニー。鬼才がSFの持つ特色をあますところなく使って、活写する不条理な世界の鳥瞰図!(BOOKデータベースより)
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『タイタンの妖女』内容
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時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは? 巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。(BOOKデータベースより)
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■『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(J.Dサリンジャー)

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』内容
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ホールデン・コールフィールドが永遠に16歳でありつづけるのと同じように、この小説はあなたの中に、いつまでも留まることでしょう。雪が降るように、風がそよぐように、川が流れるように、ホールデン・コールフィールドは魂のひとつのありかとなって、時代を超え、世代を超え、この世界に存在しているのです。さあ、ホールデンの声に(もう一度)耳を澄ませてください。(BOOKデータベースより)

村上:結局のところ、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』という小説は、世の中のほとんどの人々が自分の姿をそこに映すことのできる、個人的な鏡として機能してきたのだという気がする。そのとき、その人が立っている場所によって、光の加減や向いている角度によって、おそらくそこには様々に違った姿が鮮やかに映し出されることになる。そういう多面的な検証に、長期的にわたって耐えられる小説は、僕の読書経験から言っても、それほどたくさんあるものではない。(『村上春樹』雑文集より)


■カズオ・イシグロ作品

村上:僕はこれまでイシグロの作品を読んできて、失望したり、首をひねったりしたことが一度もない。時間をかけて、ひとつひとつ異なった種類の世界を積み上げていく彼の確実な営みに、ただ深い賞賛の気持ちを抱くのみである。(『Kazuo Ishiguro:Contemporary Critical Perspectives』より)


『日の名残り』(カズオ・イシグロ)内容
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短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。失われゆく伝統的英国を描く英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。(BOOKデータベースより)
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■『雨月物語』(上田秋成)

『雨月物語』内容
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荒ぶる先帝の怨霊、命を賭した義兄弟の契り、帰らぬ夫を待つ妻の悲しき末路、男にとりついた蛇性の女の執念…。中国や日本の古典をさまざまに取り入れ、美しくも妖気ただよう作品に仕上げた上田秋成(一七三四‐一八〇九)の珠玉の短篇集(BOOKデータベースより)
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 それまでアメリカ文学の引用ばかりをしていた村上春樹が『海辺のカフカ』で始めて日本文学初の引用をしたといわれているのが、この『雨月物語』である。それ以来、村上作品の日本文学からの引用の比重が大きくなった。

村上:小学生のころ、熱を出して学校を休んでいて、布団の中でひとりで本を読んでいたのですが、それが子供向きにリライトされた『雨月物語』でした。で、そのときに読んだのが「夢応の鯉魚」で、本を読みながらそのまま寝入ってしまって、ものすごく濃密でヘビーな夢を見ました。汗だくになって目を覚ましました。きっと刺激が強すぎたんですね。それ以来僕は『雨月物語』にとりつかれているようなものです。(「村上さんのところ」より)


■『呪われた町』(スティーブン・キング)

『呪われた町』内容
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荒れ果てた屋敷が丘の頂から見下ろす町、セイラムズ・ロット。そこに幼い頃住んでいた小説家ベンが帰ってきた。町は平穏に見えたが、ある夜、ベンは丘の上の屋敷に灯が点っているのを見る。あの屋敷を買った者がいるのだ。そしてある日、幼い少年が忽然と姿を消した……。
デビュー長編『キャリー』を刊行し、ベストセラー作家となったキングが、専業作家として初めて書き上げた作品が本書。吸血鬼譚を現代に甦らせ、現代ホラーに巨大な影響を及ぼした。「モダン・ホラー」を生み出した普及の名作。

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村上:僕がキングを他の凡百のホラー・ストーリー・ライターとは区別して考えるようになったのは第二作の『セイラムズ・ロット』(邦題『呪われた町』)からだった。この小説は冒頭の数行から「おや」と思わせるような密度の濃い緊迫感があって、結末はあいかわらず暗いものの、後味は決して悪くない。(『モダン・ホラーとUSAースティーブン・キング研究読本』より)


■『シャイニング』(スティーブン・キング)

『シャイニング』内容
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鬼才スタンリー・キューブリック監督による映画化作品でも有名な、世界最高の「恐怖の物語」

雪に閉ざされたホテルに棲む悪霊が、管理人一家を襲う。天才キングが圧倒的筆力で描き出す恐怖! これこそ幽霊屋敷もの、そして20世紀ホラー小説の金字塔(BOOKデータベースより)
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村上:『シャイニング』になるとストーリーはジェットコースター的な凄みを帯びはじめ、あれよあれよという間にキングは文字どおりモダン・ホラーの王者へとのしあがってしまった。それ以来キングの小説は殆ど全部読んでいる。ファンと言ってもいいくらいである。(『モダン・ホラーとUSAースティーブン・キング研究読本』より)

■『最後の瞬間のすごく大きな変化』(グレイス・ペイリー)

『最後の瞬間のすごく大きな変化』内容
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たった3冊の短篇集で、50年の間、圧倒的支持と尊敬を受けつづけている、まさに稀有な作家、グレイス・ペイリー。NY・ブロンクス生まれ。
ストレートにタフだけれども、温かく、ちょっとはぐれたおかしさがたまらない。どの場面も熱い血が脈打っていて「いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなる」(訳者あとがき)
「長距離ランナー」「父親との会話」等名品17篇収録。村上春樹訳で贈る、20世紀最高の女流作家、アメリカ文学シーンの生きた伝説。(BOOKデータベースより)

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村上:「グレイス・ペイリーの物語と文体には、いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなるという、不思議な中毒性がある。ごつごつとしながらも流麗、ぶっきらぼうだが親切、戦闘的にして人情溢れ、即物的にして耽美的、庶民的にして高踏的、わけはわからないけどよくわかる、男なんかクソくらえだけど大好き、というどこをとっても二律背反的に難儀なその文体が、逆にいとおしくてたまらなくなってしまうのである。その文体は彼女のまぎれもないシグネチャーであり、真似しようと思っても(そんなことを考える人が実際にいるとも思えないが)、誰にも真似することのできないものだ。」(『村上春樹 雑文集(新潮文庫)』村上春樹著https://a.co/gBogUK4より)

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