ダークファンタジーの傑作マンガ『ベルセルク』の凄さまとめ

 ダークファンタジーの傑作『ベルセルク』の凄さについてまとめてみた。

巨大な剣を背負い、鉄の義手をつけた剣士・ガッツ。彼の行くところ、血の雨が降り、死体の山が築かれる…! 大ヒット!! 圧倒的迫力の叙事詩!!(BOOKデータベースより)

宮台真司(社会学者)

実験的設定における実存を描いた類まれな傑作だ。

宮台:最終的帰結がすべて決まっていることを自覚する人々が、どう生き得るか。『ベルセルク』は、そんな実験的設定における実存を描いた類まれな傑作だ。正確に言えば、最終的帰結が決まっているのなら、選べる(と信じ得る)ものは実存だけだ。実存とは、世界(あらゆる全体)に対してどう構えるかを意味する。サルトルの実存主義が唱えた概念だ。(Real Sound 「これは物語ではなく神話である」より)

宮台:物語の詳細は省くが、ガッツは死んだ母親の骸から泥の中に生み落とされ、傭兵団に拾われ た孤児だ。虐待を受けて育ての父を殺害。その後は剣術の腕だけを頼りに戦場を渡り歩く。仲間など持ちようもない。それが傭兵団「鷹の団」の団長グリフィスと出会う。仲間に囲まれた 対照的な存在だ。傭兵団に受け容れられることでガッツも仲間を獲得した。(Real Sound 「これは物語ではなく神話である」より)

宮台:裏腹に、人望や才能を含めてすべてを持つと見えたグリフィスは、渇望を深め、やがて道を異にする。それが物語上のポイントだ。後から仲間を得たガッツは一貫して仲間の救出を「目的」として命を賭すが、初めから仲間がいたグリフィスは仲間を「手段」として目的を達成する。掟のガッツと違い、グリフィスはやがて掟ならぬ法の主催者となるのだ。(Real Sound 「これは物語ではなく神話である」より)

岡田斗司夫(評論家)

岡田:『ベルセルク』ってですね、最初の黄金時代篇からですね最初の蝕に至るまでの出来って、読んだことない人わかんないと思うんですけど他のパートに比べてちょっとね異常なほどの完成度があったと思うんですね。本来作者が持っている漫画家としてのポテンシャルの限界点というか、なんで俺にあれが書けたのかわかんない!っていう作品があるじゃないですか。例えば永井豪の『デビルマン』本人も後で言っているような作品ってときどき生まれるんですね【ベルセルク】未完で終わった不朽の傑作。偉大なるマンガ家 三浦建太郎先生が遺したもの【岡田斗司夫/切り抜き】 - YouTube

諫山創(漫画家)

 諫山創は、『進撃の巨人』を描くにあたって大きな影響を『ベルセルク』から受けたと語っている。

諫山:僕が『ベルセルク』を好きな理由の多くはデザイン要素にあって、そのときもグリフィスの仮面がカッコいいなと。となると、必然的にガッツにも対照的な仮面を被らせたくなるじゃないですか。それで、勝手にガッツの仮面デザインを落書きしていたんですが、偶然にもその直後に「狂戦士の甲冑」が登場したんですよ。しかも、それが僕の考えた仮面と似ていて、その瞬間は三浦先生とつながった気がしてうれしかったです(笑)。(2021年4月9日『進撃の巨人』の原点 諫山創×川窪慎太郎 ロング対談 | Febri



『ベルセルク』作者 三浦建太郎が影響を受けた作品

 作者である三浦建太郎は、『ベルセルク』を描くにあたって影響を受けた作品をこう語っている。

永井豪作品

三浦:僕も永井豪さんにはさんざん影響を受けましたから。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

三浦:永井豪さんのマンガでさんざんおっかないものを見せられて育った僕が、じゃあ自分がファンタジーのマンガを描いて食っていこうと思ったときに、まず最初に考えたのは、モンスターというものの原点を、自分なりに洗い直したんですね。民話や寓話に登場するモンスターは、いったいどういうものとして扱われているのかと。それで出た答えが、やっぱり人間の恐れの具現化だったり、人間の心がおかしくなってしまう一線を越えてしまったら、それは怪物や鬼だという扱いになっていたり。そういうところなんだというのがわかったので、そこをしっかりやろうと思ったんです。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

中世の世界観は映画『FLESH+BLOOD』を参考にした

三浦:『ベルセルク』を描き始める上では、さっきお話しした「むかしむかし、あるところに」をどうリアルに描くかという点で、かなり苦労したんです。ファンタジーの世界は想像でいくらでも作れるし、それがファンタジーの真骨頂だと思うんですけど、現実と地続きのリアルな世界を描くというのが、じつはいちばん難しくて。いろいろ資料を漁ったり本を読んだりしました。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

三浦:『ブレードランナー』でレプリカントをやっていたルトガー・ハウアーっていう俳優がいるじゃないですか。彼が主演した『FLESH+BLOOD』【※1】という、すごくマイナーな映画があるんですよ。レンタルビデオ屋さんの棚に置かれていて、たまたま借りたんですけど、中世の傭兵たちが主人公になっていて、その世界観にすごく感銘を受けまして。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

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ファンタジー世界の参考は『グイン・サーガ』

三浦氏:僕が影響された作品として、ひとつ言い忘れちゃいけないものに、『グイン・サーガ』【※】というものがありまして。『グイン・サーガ』はそういうところが本当によくできている小説なんですよ。主人公が旅していくと、その土地の気候とか名産とか、政治体制とかがやたらめったら詳しく書かれていて、そのなかで不思議な現象が起こるので。作られた異世界の部分もすごく良くできた上に、僕が考えるようなモンスターも出てくる話なので。あの作品はスゴイなといまだに思いますね。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側

グリフィスの仮面の参考は『グイン・サーガ』

グリフィスは鷹のイメージを頭に入れてデザインしたので、やりやすかったですね。グリフィスの最初の甲冑は、知ってる人は知っていると思うんですけど、『ファントム・オブ・パラダイス』【※2】という『オペラ座の怪人』のロックバージョンみたいな映画があるんですけど、その映画で主人公が着ているコスチュームがすごくカッコ良かったので、それをもじらせていただきました。まだマンガが野蛮な時代だったので(笑)。(2019年7月9【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側


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