漫画史上最大の傑作 永井豪『デビルマン』の凄さとその影響まとめ

 漫画史上最大の傑作 永井豪『デビルマン』の凄さとその影響について、まとめてみた。

識者による『デビルマン』の批評

岡田斗司夫(評論家)

少年誌のタブーを明らかに越えてしまった

岡田:やっぱり最終回は腰ヌケますよね。「何あれ!!」って。美樹ちゃんが殺されちゃってお祭り状態のやつと、ラストシーン、あれは本当に何が起きたんだ?この漫画って。こんなこと漫画でやっていいの?って。で、当時僕が行ってた学校で、少年マガジンが持ち込み禁止になったんですよ。相当、問題になった。表現上も明らかに講談社がこれまで子ども向けにやっていた建前がどんどん外れちゃった。その究極みたいなやつですよね。(BSマンガ夜話 「デビルマン」永井豪(1999年)より)

夢枕獏(小説家)

普通の文脈から考えたら、あり得ないことがラストに起きた

やっぱりめちゃくちゃ新しかったんですよ、当時。今この影響下にある漫画ってめちゃくちゃたくさんあるんですよ。いろんな漫画に現在も影響を与えてまして。やっぱり一番すごかったのは、(ヒロインの)美樹ちゃんが死んじゃって、首だけになっちゃって。単に首になっちゃったのには驚かないんだけど、美樹ちゃんがなっちゃったのが凄い。

ーヒロインですからね。

夢枕:普通の文脈だったら、1巻から考えてあり得ないことが起きたんですよ。1巻のどこでどうなったかがわからないんですよ。つまり、このコマを描いた瞬間から永井豪が変わって、このラストシーンに向かっていったのはどこかなと思って見たんですけど、無いんですよ。たぶん人面あたりから変わったんじゃないかなと思うんだけど。(BSマンガ夜話 「デビルマン」永井豪(1999年)より)

いしかわじゅん(漫画家)

作者の心の中をモノローグで執拗に描いている

いしかわ:つまり心理描写だよね。それまでの漫画って、そんなに自分の内面を描くことってあんまりなかったんだよね。だけど、それを多様しているということは作者の心の中を執拗に描いていかないと成立しなかったってことなんだよね。やっぱり画期的なことだよね。(BSマンガ夜話 「デビルマン」永井豪(1999年)より)

庵野秀明(『エヴァンゲリオン』シリーズ総監督)

 「デビルマン」は、「ダンテの神曲」や、聖書から、物語のベースを持ってきており、当時、驚きを持って迎えられ、その後、多くのフォロワーを生み出している。エヴァンゲリオンの聖書を軸とした世界観も影響を受けている。
 庵野は、「デビルマン」からの影響をこう明言している。

やりたいことは『デビルマン』がすでにやっている

庵野 :無意識でやっているんでしょうね。永井豪テイストはもう完全に入っているでしょう。拭うことができない。(スキゾ・エヴァンゲリオンより)

庵野:『エヴァ』の劇場版で、弐号機ー赤いロボットがやられるところって、牧村家のアレがどうしても意識から離れなかったんですよ。一番最初の脚本って槍に刺したんですけど、ビジュアル的にあまりにもそっくりだから「やっぱりこれは避けよう」と。あれが一番ワカりやすいんですよね。一番インパクトがあって一番わかりやすくて「これだ」と思うのはもう『デビルマン』でやられてる。(庵野秀明×永井豪 対談 エヴァンゲリオン旧劇場版公開後)

『デビルマン』が影響を与えた作品

 「月刊ムー」編集長の三上丈晴氏、永井豪先生の大ファンを公言する作家・編集者として活躍するゆずはらとしゆきらの対談で『デビルマン』の影響を受けたであろう作品が語られている。

有名なところだと、『寄生獣』(88年)ですか。異形同士の戦いを通して、人間の性「悪」なり! というテーマを描くという。『ベルセルク』(89年)なんて、もっとあからさまですよね。蝕はサバトだし、グリフィスは飛鳥了だし、たまにガッツが不動明の顔になってるときもある(笑)。(2018年1月15日 KAI-YOU 座談会 『デビルマン』永井豪の落とし子たち より)

『寄生獣』(岩明均)
 連載終了後、あまりの面白さとラストの秀逸さは世界に伝播しハリウッドでの映画化がかねてよりずっと噂されていた。2014年には、山崎貴監督により実写映画化され話題を呼んだ。

あらすじ:シンイチ…『悪魔』というのを本で調べたが…いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ…他の動物の頭に寄生して神経を支配する寄生生物。高校生・新一と、彼の右手に誤って寄生したミギーは互いの命を守るため、人間を食べる他の寄生生物との戦いを始めた。(BOOKデータベースより)

『ベルセルク』(三浦建太郎)

 日本国内だけではなく、ドイツやフランスといったヨーロッパ圏での人気も高く、全世界シリーズ累計発行部数4000万部を超えるダークファンタジーの傑作。


ゆずはら 『寄生獣』の岩明均先生は文化人類学的な視点を持っている方なので、『デビルマン』的なテーマを自身の解釈で描いたという感じですよね。あと、『デビルマン』のテーマ性に最も近づいた作品は『幽☆遊☆白書』だと思います。他者とのディスコミュニケーションを異能バトルへ抽象化し、『デビルマン』的な価値対立へ接近した結果、作品はボロボロに壊れていくんですが、黙示録の世界へたどり着くことはなく、日常へ還ってくるという形で、ようやく『デビルマン』に影響を受けた世代の回答を出すことができた、と思っています。(2018年1月15日 KAI-YOU 座談会 『デビルマン』永井豪の落とし子たち より)

『幽遊白書』

 『デビルマン』のテーマ性に最も近づいたと言われる冨樫義博の傑作。

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