国民的映画なのか?新海誠監督作品『すずめの戸締まり』有識者の批評まとめ

 国民的映画なのか?新海誠監督作品『すずめの戸締まり』有識者の批評をまとめてみた。

『すずめの戸締まり』公式サイトより

岡田斗司夫(評論家)

 岡田斗司夫は、圧倒的な個性を持っていた新海誠『君の名は』~『すずめの戸締まり』の製作の過程で、が自分の作家性を捨てて、国民的映画作家となることに成功したが、自分が好きな「頭のおかしさ」はどこにも無くなってしまったことに寂しさを感じているようだ。

国民映画として大成功だが、新海誠の狂気はどこにも無い

岡田:(すずめの戸締まりは)ほとんどの日本人にとってぴったりの映画。『鬼滅の刃』とかと同じですね。僕にとっては、新海誠は自分を魔改造して国民作家にしたのは大成功だなあと。でも新海誠の狂気、頭のおかしい部分はもうどこにもないなあと思っちゃうんすよ。頭のおかしい作家の方が、僕は好きなんですよ(笑)宮崎駿とか庵野秀明とか『HUNTER×HUNTER』の冨樫さんとか、藤本タツキとか。(2022年11月20日すずめの戸締まりは何点? 僕の映画採点評 2022秋 岡田斗司夫ゼミ#464(2022.11.20) - YouTube)

ダイジンの痛みに全く共感が無い

 岡田は、本作の重要キャラクター『ダイジン』が抱える痛みに対しての共感の描写がないことに大きな違和感を感じたと言う。

岡田:ダイジンっていう猫みたいなやつが出てくるんですけど、これが地震とかを止める要石なんですね。それを抜いちゃったのでっていうのが騒動の発端なんですけど。人柱として、地震とかを鎮めるためになってくれてるんですけど、その痛みに全く共感がないんですよね。主人公が好きな男の子が人柱になってしまった時はあんなに悲しんで助けるためにって頑張るのに、猫(ダイジン)が代わりにもう一度人柱になってくれるのは、もう無視なんですよ。(2022年11月20日すずめの戸締まりは何点? 僕の映画採点評 2022秋 岡田斗司夫ゼミ#464(2022.11.20) - YouTube)

ダイジンをすずめの母親にすべきだった

 映画としての思想性を高めるためにも、『ダイジン』は死んだ母親であったという展開にすべきだったと岡田は語っている。

岡田:ダイジンの痛みから観客の目を逸らすために、過去の自分との出会いみたいなエピソードをねじこんでるんですよね。2つのダイジンのうちどちらかをですね、すずめの母親にすべきだったと僕は思うんですけど。初期設定だったらそうなってたのかもしれないけど、それぐらいのことをやらないと、つまり「自分はもう一度母親を失ってでも、好きな人と一緒にいたいのか?」という、いわゆる何かのためには何かを犠牲にしなければいけないという。そういう痛みを物語作家は作品に込めないと思想性は出ないんですよね。(2022年11月20日すずめの戸締まりは何点? 僕の映画採点評 2022秋 岡田斗司夫ゼミ#464(2022.11.20) - YouTube)

成田悠輔(イェール大学助教授)

 学生時代から新海作品全てを見てきたという新海誠ファンである成田悠輔は、シラスで行われた東浩紀との対談で『すずめの戸締まり』に関して感想を整理できていないと語りながら、国民的映画であろうとする本作は、誰も傷つけない表現となっているが、それを徹底することの先に『創造』はあるのか?疑問であると語っている。

人を傷つけない表現を徹底することの先に創造はあるのか?

成田:人を傷つけない表現っていうのを徹底することの先に創造はあるのか?っていうことがちょっと気になったんですよね。

東:いいですねえ!僕が『すずめの戸締まり』について何を考えてるかっていうことはゼロ情報で今言ってるはずでしょ!?そういうことですよ!本当にそうなので凄く嬉しいなあ。その通りです!!(2022年11月28日 シラス 成田悠輔×東浩紀「民主主義に人間は必要なのか」)

成田:僕は必ずしも(人を傷つけない表現っていうのを徹底すること)を批判として言っているわけではなくて、震災、日本のポップカルチャーの歴史あるいは日本が持っている地理みたいなもの。それに紐づいている家の形とか街の形とか全部、日本人の生活全体みたいなものをドカッと誰に頼まれたわけではないのに、引き受ける。(2022年11月28日 シラス 成田悠輔×東浩紀「民主主義に人間は必要なのか」)

これが今の日本のアニメ創作がたどり着いた表現なのか?

成田:それを表現する中で、いろいろな方面に気を遣いながら誰のことも傷つけない醜いもの、ねじ曲がったものがいないということが、日本のアニメ創作のたどり着いたところなのかっていう風に感じたっていうことですね。(2022年11月28日成田悠輔×東浩紀「民主主義に人間は必要なのか──『22世紀の民主主義』vs『一般意志2.0』」【『ゲンロン13』刊行記念】@narita_yusuke #ゲンロン221128 ゲンロン完全中継チャンネル | シラス

成馬零一(ドラマ評論家)

 ドラマ評論家の成馬は、『すずめの戸締まり』について世間でよく指摘されている『宮崎駿』要素、『村上春樹』要素に加えて、『朝ドラ』要素をかけ合わせて考えると本作の特異性が浮き彫りになると語る。

朝ドラのような構成

 ドラマ評論家の成馬零一は、自身のTwitterで朝ドラのように朝ドラを映画の尺に再編集したような物語だと語っている。


 本作の声優で朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の出演者である松村北斗、深津絵里、上白石萌音をキャスティングしていること。『カムカムエヴリバディ』には、新海の実の娘である新津ちせも出ていることから、見ていることは間違いないと成馬は考えているようだ。
 さらに、映画自体の短いエピソードを圧縮してつなぎ合わせたような構成をまるでTVシリーズの再編集版(朝ドラ的なもの)のようであり、これまで考えられてきたいわゆる映画的な構造ではないと語っている。

シン・ウルトラマンの構成にも似ている

成馬:結構、シン・ウルトラマンに構成は似ているというか。小説版があるんですけど、目次を見ると1日目、2日目、3日目、4日目、常世、みたいになってるんですよ。1日で移動してるんですよね。ものすごいエピソードが圧縮されてるんですよ。それが何か行間がなくて、いろんなエピソードが箇条書きにされてるみたいで、俺は見づらかったんですよね。(2022年11月17日批評座談会〈すずめの戸締まり〉 - YouTube

土居伸彰(評論家)

『君の名は。』から描いてきた震災というテーマ

新海監督と東日本大震災の関係といえば、なんといっても『君の名は。』です。ただしその言及は直接的なものではなく、彗星の落下と、それによって消滅した糸守町の話として展開されています。『君の名は。』は、災害の被害者が復活するという物語を語りました。そのことは、公開当時、大きな議論を呼びました。新海誠は、『君の名は。』に寄せられた様々な反応(とりわけ批判)がその次作『天気の子』制作への大きなモチベーションとなったことを同作の原作小説のあとがきに記していますが、その批判の一部は、震災被害に対するこの扱い方自体に対して寄せられたものでもあったはずです。(新海誠が『すずめの戸締まり』で描いた生者と死者の境界線(集英社オンライン) - Yahoo!ニュース

『君の名は。』を語り直す作品

『すずめ』は、『君の名は。』を別の形で語り直す作品であるのかもしれないと思わされます。本作の原作小説のあとがきでは、新海誠自身がずっとこの震災に衝撃を受け、今でも考え続けているということが書かれています。なぜ被害に遭い死者となったのはあの人たちであって、自分ではないのか。生者と死者のあいだの境界線があまりに根拠なく引かれてしまっていることの不条理を、考え続けているのだと。『すずめ』は、その思いをストレートに物語に落とし込んでいるのです。(新海誠が『すずめの戸締まり』で描いた生者と死者の境界線(集英社オンライン) - Yahoo!ニュース

 『君の名は。』では、死者を復活させる展開を描いた新海が、生者と死者の間に境界線をはっきりと描き、死者を死者たらしめるという震災に対する切実な向き合い方に変化したと土居は評価している。

『君の名は。』において犠牲者たちは蘇りますが、『すずめ』において犠牲者たちは蘇りません。『君の名は。』は犠牲者たちの呼びかけに反応し、過去と現在、生と死のあいだを行き来しますが、『すずめ』において生者は死者の空間に足を踏み入れはするものの、死者側のほうからは何も呼びかけてはきません。沈黙を貫くままです。こちらから呼びかけても決して何も応えてくれない死者たちの立ち位置こそ、本作の肝です。(新海誠が『すずめの戸締まり』で描いた生者と死者の境界線(集英社オンライン) - Yahoo!ニュース

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