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宮崎駿が天才である理由。なぜ世界で売れるのか。


世界のアニメーション業界のトップを走り続けたスタジオジブリ宮崎駿は一体なにがそんなに凄いのか?なぜ世界で作品は支持されるのか?そんな疑問に対して関係者が宮崎駿の凄さを語ったエピソードをまとめてみる。

鈴木敏夫(ジブリ プロデューサー)

 
ドワンゴ元代表取締役、ジブリでプロデューサーも務めた川上量生は、著書「コンテンツの秘密」の中で鈴木敏夫が語る宮崎駿の凄さの秘密を明かしている。

鈴木は、川上に「世界で売れる映画というのは、感覚じゃなく、理屈でつくっている映画だ」と言った。

本来、宮崎駿の映画は、宮崎の感覚でつくられているので、世界で売れる映画ではないはずだと。なのになぜ支持されるのか?鈴木はこう分析したという。

宮崎駿は好きなものを大きく描く

「宮さんはね、好きなものを大きく描くんだよ。宮さんは飛行機が好きだから、宮さんの描く飛行機は現実にある飛行機よりも大きくなる」そう説明するのは鈴木さんです。たとえば「風立ちぬ」に出てくる飛行機は、現実の飛行機の縮尺よりもかなり大きく描かれているのだそうです。「宮さんのなかでは飛行機はこの大きさなんですよ。こうあってほしいという大きさで描いている。でも、そのほうが見るほうも気持ちいいんですよ

『もののけ姫』のモロがシーンによって大きさが全然違うというのも有名な話ですね。

見ると脳にとって気持ちいい絵

実際よりも大きく描くのは、一般的には誇張とかデフォルメとか言われていますが、それともちょっと違うようなのです。「宮さんは見ていて気持ちいい絵を描く天才だ」と鈴木さんは言います。誇張としておおげさに描いているのではなく、脳にとってはむしろ自然な大きさで描いているのだと言うのです。だから見ていて気持ちいい。(「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」)

庵野秀明も宮崎作品は映画ではなく、宮崎が描いた絵コンテが一番おもしろいと語っていますね。

正確に人間の脳と視覚構造が認識しやすい形で描いている

宮崎作品が世界で認められているのは、正確に人間の脳と視覚構造が認識しやすい形で描いているから、つまり、描いているものが脳に気持ちいいから。これが鈴木さんの説明です。 この鈴木さんの説を、別の場所で、庵野監督に対して話してみました。(「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」)

日本のネット文化をつくり、ひろゆきを世の中に出した張本人 川上量生の凄さについてはこちらの記事から
fc0373.hatenablog.com

庵野秀明(映画監督)

川上がぶつけた鈴木敏夫の説に対して、宮崎駿の弟子であり、ライバルである『エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明はこう語ったという。

無意識に脳が認識した絵を描けるのが宮崎駿の才能

庵野監督の感想がまたおもしろかったのです。 「じゃあ、なぜ宮さんは脳に気持ちいい形を正確に描けるのか? 宮さんはおそらく目が見たとおりをそのまま描いているだけだと思います。つまり脳が認識して、受け取った情報のまま、紙に写しているので、それが結果的に脳が理解しやすい形になるというのが宮崎駿の秘密だと思います」 つまり意図して脳が認識しやすい絵を描いているわけじゃないというのです。ふつうの人は脳が認識したとおりには絵を描けない。それが無意識にできてしまうのが、宮崎駿の才能だというのです。 庵野監督によると、脳にとっての最高の写実主義をやってのけているのが宮崎駿だということになります。(「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」)

かつて、宮崎駿を大批判していた庵野秀明も大人になり、ちゃんとその凄さを語れるようになったんですね。


庵野秀明の凄さについてはこちらの記事から
fc0373.hatenablog.com


押井守(映画監督)

宮崎駿を仮想敵とみなして、作品を作り続けてきた押井守。

押井は宮崎の凄さは、勘でできる画面レイアウトにあると語る。

勘でできるから天才

『未来少年コナン』で線一本だけで砂漠の奥行きを表現しているシーンにその天才性が現れていると押井は語る。

押井: 地平線が一本描いてあるだけなんだけど、すばらしいレイアウトなの。これは宮さんに聞いたことがあるんだけど、あのレイアウトを固めるのにやっぱり半日かかったんだって。この線をどこに引くかっていうだけで。それぐらい微妙なものなんだよ。その線一本ですごい広大な砂漠を表現したんだよね。こう鉄板をかざして、その日陰のなかにラナが寝ていて、こう影が落ちてるわけ。その影の落ち方も絶妙なんだけど、それと遠くの地平線がパース的に一致しなきゃいけない。それをあの人は勘でやってるんだよね。 (「勝つために戦え!監督稼業めった斬り」)

このシーンについて押井から尋ねられた宮崎は、心底嬉しそうに「1本の影の線を描くのにどれだけ時間がかかったか」と夢中で語りだしたらしい。

──勘でできるから天才なんですね。
押井 そうなんだよ。僕だったら三角定規で補助線を引きまくる。地面に落ちてる影のパースと地平線を一致させて、アイレベル(カメラ位置)をどこにフィックスするかっていうさ。でもそれでやったからと言って印象的になるかどうかはわからないんだよ。時には噓も必要なんで。「勝つために戦え!監督稼業めった斬り」)

人が定規をつかって緻密に計算するところを勘でできてしまうのが宮崎駿の凄さですね・・・

富野由悠季(映画監督)

『機動戦士ガンダム』シリーズで知られる映画監督 富野由悠季は、同い年の宮崎駿の才能に衝撃を受けながら、乗り越えようとしたライバル関係がある。

富野は自身の手掛けた作品が『所詮アニメーションの範疇にすぎない』ということを自虐的に常々語ってきている。そして、自身と比較して宮崎駿の凄さを『アニメを越えた映画という作品を創れることだ』と語っている。

『風立ちぬ』はアニメという枠を超えた“映画”なんです。

富野:手塚・宮崎のような作り手をそばで見ていると、ひとつの目線だけでアニメを作れるとは思えなくなります。宮崎監督は『紅の豚』が作れるから『風立ちぬ』も作れるんです。どういうことかというと、メカのディテールはもちろん物語の描き方も熟練しています。だから、『風立ちぬ』みたいな巧妙な作劇ができるんです。僕からすると、あの作品はアニメという枠を超えた“映画”なんです。(ORICON NEWS 『ガンダム』生みの親・富野由悠季が感じた手塚治虫・宮崎駿の凄み より)

富野監督は、宮崎駿や高畑勲のアニメ以外の芸術や文学への造詣の深さに衝撃を受けたとも常々語っていますね。

宮崎さんが描いたのは、絶望の物語なんです

富野:本当に見事な映画です。宮崎さんが描いたのはこういうことです。技術者というのは夢を持つ。美しいものが空を飛ぶ姿は素敵だ。でも、航空技術に関わったおかげで、軍事でしか自分の才能を昇華できなかった。そんな絶望の物語なんです。(「SACLA×GENIUS」より)

『風立ちぬ』はすべてのクリエイターが共感する物語となっていますね。

米津玄師(音楽家)

米津は鈴木敏夫のラジオ『ジブリ汗まみれ』に出演時、宮崎駿の凄さと自身への大きな影響についてこう語っている。

ナウシカと墓場の王との会話が自分の創作の指針

米津:俺は、漫画版のナウシカが凄い好きで、最後のナウシカと墓場の王との会話が凄い好きで。自分が音楽つくったりする時の指針になってるなって。

鈴木:その中のどのセリフなんですか?

米津:王様がナウシカに向かって、「お前は闇だ」っていう言葉に対して、「違う。私たちは闇の中を瞬く光だ」っていうのが俺凄い好きで。闇も光も両方持ってて、両方表現しないと、リアルなものはつくれないっていうのは、そこで教えてもらった気がして。(ジブリ汗まみれ)

米津玄師の宮崎作品への深い理解が、宮崎が初めて聞いて涙を流した『君たちはどう生きるか』の歌詞に現れていますね。

米津玄師が語る宮崎駿の凄さと自身への影響についてはこちらの記事から
fc0373.hatenablog.com

尾田栄一郎

印象的なシーンが完成されているから、ストーリーのつながりは関係がない

尾田は宮崎が『千と千尋の神隠し』以降、ストーリーの整合性を捨てたと考えており、それでも凄いのは印象的なシーンが完成されているからだと言う。

尾田:映画に関しては”世界観があればオールオッケー”という見方をしているんです。宮崎作品がなぜ好きかというと、印象的なシーンが完成されているから。たとえストーリーがつながっていなくても、そのシーンを観るのが楽しいんです。だから、「千と千尋の神隠し」以降は、ストーリーに関していえば全然意味が分からない。「ハウルの動く城」も「崖の上のポニョ」も何度も観てやっと自分なりの解釈が生まれるくらいで、理解するのに時間がかかりました。

尾田さんはシンプルに宮崎駿の映画はストーリーの構造が崩壊していると言っていますね(笑)

一生かけても描き切れないほどの映像を頭のなかに持っている

尾田:宮崎さんは、一生かけても時間がないくらい、描き切れないほどの映像を頭のなかに持っているんだと思うんですよ。なのに、なんでもつじつまを合わせなきゃいけないとなると、描きたいものを削らなきゃいけなくなる。だから宮崎さんは、もうそれをしたくないんだ。つじつまが合わなくてもいいから、描きたいものはみんな描くんだという気持ちがある。そういう積み重ねが「千と千尋」以降の映画だったと思うんです

『千と千尋』以降、宮崎は、高畑勲がつくった映画の構造を捨てて、一番得意な描写(シーン)優先で映画を作り始めたんですね。

鳥山明

鳥山明の「ドラゴンボール」初期が、宮崎駿の「未来少年コナン」に多大な影響を受けてつくられているといわれている。ジャンプの巻末インタビューで、鳥山明は、宮崎作品についてこう言及している。

「未来少年コナン」には感激しました

ーおすきなアニメはなんですか
鳥山:アニメはほとんど見ていませんでしたが、ビデオで見た「未来少年コナン」には感激しました。以後わりと積極的に見るようになり、「ナウシカ」、「トトロ」、「銀河鉄道の夜」、「オネアミスの翼」などがすきです。

新海誠

『ラピュタ』の背景美術を通じて、雲の美しさを突きつけられた

新海:僕は中学一年生のころに、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』を映画館で見たときの衝撃がすごく大きくて、今でも強く覚えています。(2017/1/1 ハフィントンポスト)

新海:『ラピュタ』を見て「雲ってなんてきれいなんだろう」と思ったんです。『ラピュタ』の背景美術を通じて、雲の美しさを突きつけられました。『ラピュタ』を見たあとに現実の空を見たら、こんなに複雑で美しいものだったんだと、作品を通じて教えられたような感覚がありました。(2017/1/1 ハフィントンポスト)

海外編

スティーブン・スピルバーグ

スピルバーグ:私は宮崎駿の世界が本当に素晴らしいと思う。『千と千尋の神隠し』は本当にすばらしい映画だった(2018/4/19 MOVIE WALKER)

スピルバーグは、映画史上最高のカーチェイスは宮崎の『カリオストロの城』と評したという伝説もあります。

ジョン・ラセター

宮崎駿のファンであり、アメリカにスタジオジブリ作品を紹介したことで知られるジョン・ラセターはこう語っている。

ネコバスやポニョの独創的なアイデアは私には考えつかない

宮崎さんの全ての作品にはハートがあります。そして、作品ごとに必ず独創的なアイディアが取り入れられています。ネコバスというキャラクターもそうですし、ポニョが波の上を走るなんていうのも考えつかないことです。そうしたオリジナリティに私も刺激をもらい続けてきました(2013/7/17シネマカフェ)

ピクサーはチームでガチガチのハリウッド的方法論で作品をつくりますが、確かにそこからネコバスのようなアイデアは出てこないかもですね。/p>

静かな瞬間を祝福する描写の凄さ

宮崎さんの作品には“静かな時間”を祝福するような描写があります。それがあるからこそ、そのコントラストでアクションのシーンのスリルが増すのです。ここからはオタクとして話をさせてもらいますが(笑)、『カリオストロの城』の冒頭でフィアットがパンクし、(ルパンと次元が)ジャンケンをして負けた方がタイヤを交換するのですが、(次元が)タイヤを交換する間、(ルパンは)ゆっくりと空を見上げ雲を観察し、風が草をなびかせます。そして次の瞬間、急に別の車がやってきてカーチェイスが展開する。そのコントラストが最高です!(2013/7/17シネマカフェ)

ウェス・アンダーソン

天才的な画面レイアウトと色彩感覚、センスの塊で熱烈なファンがいるウェス・アンダーソン監督が、宮崎駿作品を知ったのは、自身初のストップモーションアニメ「ファンタスティック Mr.FOX」の制作中だったという。

来日した際に、ジブリ美術館でDVD全作を買ったのだという。ウェス・アンダーソンは、当時のことをこう語っている。

その映画をつくっている間、宮崎監督の映画にどんどん影響を受けていく感じだった。でもその映画では、ストーリーがすでに存在している段階だったので、それほど影響は色濃くないけれど、その映画製作中に彼の作品をよく観ていたのは確かだ。そして『犬ヶ島』をつくっているときは、すでに彼の作品全てを熟知していて……何度も繰り返し観ていたからね。今作のほうが、より宮崎監督作品に影響を受けていると思う」。(シネマトゥデイより)


そんな天才宮崎駿の創作の哲学や、アニメーション表現とは一体何なのか自身が語ったインタビュー等のまとめ本はこちら↓

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