「エヴァンゲリオン」シリーズや庵野秀明が影響を受けた作品をまとめてみる。
永井豪「デビルマン」
庵野秀明に衝撃を与えたという永井豪の「デビルマン」。庵野と同世代の人はとにかく衝撃をうけたらしい。エヴァンゲリオンのデザインイメージは、デビルマンのような、鬼や悪魔の恐怖のイメージだったという。
また、「デビルマン」は、「ダンテの神曲」や、聖書から、物語のベースを持ってきており、当時、驚きを持って迎えられ、その後、多くのフォロワーを生み出している。エヴァンゲリオンの聖書を軸とした世界観も影響を受けている。
庵野は、「デビルマン」からの影響をこう明言している。
庵野 :無意識でやっているんでしょうね。永井豪テイストはもう完全に入っているでしょう。拭うことができない。(スキゾ・エヴァンゲリオンより)
川島雄三「幕末太陽傳」
実在した江戸時代の遊郭「相模屋」を舞台に起こる様々なできごとを群像劇として描いた日本映画の傑作。映画人が選ぶオールタイム・ベストで4位や5位になるらしい。日本映画屈指の名作と言われているらしい。
そんな「幕末太陽傳」には幻のラストシーンがある。結核を暗示する咳をする主人公、まわりに「地獄に落ちるぞ」と言われながらも、「地獄も極楽もない!俺はまだまだ生きる!」といい、走り始める。海沿いの道を延々と走り抜けると、映画のセットを抜け、スタジオを飛び出し、現代の日本へ走りさっていくというものだ。つまり、公開当時1957年に、ばりばりのメタフィクションをやろうとしたのだ。結局、スタッフや、役者の猛反対に合い、監督の川島は、ラストシーンの構想を諦めることになる。メタフィクションが、理論化されたのは、その後1970年代のことである。
エヴァンゲリオンアニメシリーズ最終回や、シン・エヴァンゲリオンラストのアニメーションから、現実とCGの世界へ、走り去るシーンなど、明らかな影響を受けている。
庵野は、「幕末太陽傳」からの影響をこう語っている。
庵野 :ええ、あれをやりたかったんですよ。あれが近いと思う。川島雄三の気持ちはわかる気がします。 (スキゾ・エヴァンゲリオンより)
※メタフィクション
作り話であるということを意図的に読者や観客に気付かせることで、虚構と現実の関係について問題を提示する手法
村上龍 「愛と幻想のファシズム」
あらすじ:激動する1990年、世界経済は恐慌へ突入。日本は未曽有の危機を迎えた。サバイバリスト鈴原冬二をカリスマとする政治結社「狩猟社」のもとには、日本を代表する学者、官僚、そしてテロリストが結集。人々は彼らをファシストと呼んだが……。これはかつてない規模で描かれた衝撃の政治経済小説である。(Amazonより)
村上龍の傑作。庵野は、村上龍に特別なシンパシーを感じているようだ。鈴原冬二、相田剣介という本作の主人公2人の名前をエヴァでも重要なキャラクターに割り振っている。「愛と幻想のファシズム」は父なる総理大臣を殺し、母なる日本を犯すというエディプスコンプレックスをテーマとした物語。エヴァは、もろに、その物語性の影響を受けている。
エヴァアニメシリーズ終了後、庵野は、村上龍原作の「ラブ&ポップ」を実写化するなど、村上へのシンパシーの感じ方は強烈である。
庵野は、村上龍へのシンパシーをこう語っている。
『愛と幻想のファシズム』とか。あれのゼロが好きなんです。依存心の高い。村上龍も僕と同じで何もない人だと思う。すごく情けない人。
竹熊 すごく文体なんかもスタイリッシュでしょ。スタイルで読ませていくタイプ。
庵野 結局、そこでしかない。女に依存して自分を維持しようとしている情けない人なんでしょうね。(「スキゾ・エヴァンゲリオン」より)
『愛と幻想のファシズム』なんです。思想的なところではこの小説と同じところはあると思いますねー 一番感動したのは、あそこで鈴原冬ニという主人公が、いまの総理大臣を殺そうとした時にすごく父親みたいな感じがしたんです。俺は父親を殺し、日本っていう母親を犯すんだって思う(「スキゾ・エヴァンゲリオン」より)
宮崎駿「風の谷のナウシカ」漫画版
庵野秀明は、ナウシカ漫画版こそ、宮崎駿の傑作であると公言している。7巻だけを自身の手で映画化したいと宮崎駿に言い続けていたのだという。ずっと断りつづけていた宮崎だが、病気で倒れた後、庵野にやらせてもいいと言っているらしい(笑)
ジブリプロデューサーの鈴木敏夫は後に、エヴァンゲリオンを観て、ナウシカからの影響についてこう語っている。
鈴木:処女作にその才能は垣間見えると言うけど、(「風の谷のナウシカ」の)巨神兵を見たときじゃないですかね。粘り強くてすごいシーンになってたんで。その後公表していると思いますけど、実は「ナウシカ」の中に幻の絵コンテがあったんです。何かというと、巨神兵と王蟲(オーム)の戦い。これをやっぱりやりたかったといまだに言ってますからね。ついでだから言っちゃうと、彼はある時期、「ナウシカ」を自分で映像化したいとも言ってました。僕は面白いなと思ったんですよ。宮さんの作った「ナウシカ」はあるけど、庵野の作る「ナウシカ」ってどうなるんだろうと。「エヴァンゲリオン」の最初のテレビシリーズがすごく面白かったですけど、注目したのが、その(エヴァンゲリオンの)デザインですよね。巨神兵じゃんって(笑)。要するにトラウマになっていて、結局彼が何をやってるかっていうとね、「ナウシカ」のその後って感じでしょ?(笑) 僕はそう思いました。(映画ナタリー インタビューより)
諸星大二郎「暗黒神話」「妖怪ハンター」
宮崎駿の「もののけ姫」にも影響を与えた諸星大二郎。選考委員の満場一致で決まった「生物都市」での手塚賞受賞時は、「完成度が高すぎて、新人が書いたものとは思えない」「盗作ではないか」など、その才能に業界が驚嘆したという。
庵野:『暗黒神話』って今考えると、元祖 セカイ系 ですね。僕は諸星先生の漫画で自分の基礎ができている自覚がありまして。そういった意味でも、自分が セカイ系 へ行くことになったのは『暗黒神話』があったからだと思っています。ひとりの少年が世界を背負う=アートマンになる。ああ、そういうのもありなんだって、ものすごく惹かれました。(画楽.mag 2014年 庵野秀明と諸星大二郎の対談より)
庵野:前の劇場版のラストシーンのイメージは『暗黒神話』のラストの馬頭観音像の印象を引きずってますね。像の前に主人公がたたずんでいるシーンです」
―あのエヴァのラストの海のシーンは『マッドメン』のラストシーンの雰囲気と共通したものがありますね。(画楽.mag 2014年 庵野秀明と諸星大二郎の対談より)
庵野:そうですね。あ、それと前のエヴァの時、綾波の顔がギューと伸びるのは、僕の中では『妖怪ハンター・海竜祭の夜』のあんとく様ですね。あんとく様の破壊力はすごかったです。あれに遭遇したら “お許しを〜!” ってなりますね。あれは本当に怖かったです(画楽.mag 2014年 庵野秀明と諸星大二郎の対談より)
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