将棋界の前人未到のステージを切り開いた不世出の天才棋士 羽生善治の凄さ

前人未到の圧倒的実績

 羽生は、初タイトルとなった1989年の竜王戦から現在まで137回のタイトル戦に登場し、99回のタイトル獲得を果たしている。 内訳はタイトル奪取22、防衛77、失冠22、挑戦失敗16となっている。 これまでの全タイトル戦勝率(防衛・奪取)は7割を超える。通算勝利数は歴代1位を更新中。
 名人、竜王、王位、王座、棋王、王将、棋聖の各棋戦の「七大タイトル」(17年には叡王戦が加わって八冠に)を全て規定回数以上、獲得し史上初の永世七冠となった。
 羽生世代の天才棋士、佐藤康光は羽生の実績の凄さをこう語っている。

佐藤:羽生世代と言っても、羽生さんと、私を含めたほかの棋士は実績に差がありすぎます。そこははっきりと区切ったほうがいいと思います。羽生さんと比較できる棋士は、ほかには誰もいないんです。ー『証言 羽生世代 (講談社現代新書)』大川慎太郎著

羽生には特徴が全くない

 羽生とタイトルを争い続けてきた渡辺明棋士は、「羽生の特徴は?」と聞かれ、いつも困ってしまうと語っている。特徴といえば、「強い」というただ一点であり、「弱点」がないからこそ、羽生には特徴がないのだと渡辺は語る。

渡辺:私は 、序盤からいきなり戦いになるような乱戦が好きではないので 、序盤は 、玉を金銀で囲うことを優先する 。しかし 、羽生さんはどんな戦法でも指しこなすし 、序盤から大乱戦になっても 、一歩も引かない 。まさに展開不問だ 。—『勝負心』渡辺 明著より

羽生の手が震えたら観念するしかない

 勝負が決まった瞬間に緊張から解き放たれ、羽生の手が震えることは今ではよく知られた話だが、最初の羽生震えを起こしたのは渡辺明との2003年王座戦だった。
 最終5局までもつれた戦い、終盤戦に羽生の手が突如震えだしたことを渡辺は著書でこう語っている。

渡辺:将棋専門誌や写真週刊誌では 、 「羽生を震えさせた男 」と報じられた 。羽生さんの手の震えは 、その後も希に見られるようになった 。今では 、 「終盤で羽生さんの手が震えだしたら 、観念するしかない 」と言われている 。私の初タイトル戦は 、二勝三敗という僅差での負けだった 。」—『勝負心』渡辺 明著

劣勢から大逆転する羽生マジック

 羽生との対戦数が最も多い天才 谷川浩司は、劣勢から逆転する『羽生マジック』のせいで、自身が絶対的に自信を持っていた終盤戦がゆらいでしまったという。

谷川:羽生さんの圧倒的な終盤力に惑わされていました。もちろん羽生さんは惑わそうとしてはいなくて、劣勢の局面でも逆転の可能性があるような混沌とした局面に持っていこうとしているだけなんです。それが『羽生マジック』と呼ばれていました。私も優勢な将棋を自分から転んで勝ちきれなかったことが何度もあって、自分が絶対的な自信を持っていた終盤戦が揺らいでしまった。—『証言 羽生世代 (講談社現代新書)』大川慎太郎著

 また、小学4年生の頃から羽生と将棋仲間であった同世代棋士、森内俊之は終盤の『羽生マジック』の凄さをこう語っている。

森内:当時、羽生さんはまだ序盤が大らかだったので、私のペースになることが多かった。でも気づいたら逆転されているんです。私は将棋というゲームは、優勢になってある程度持ち時間があれば勝てるものだと思っていました。でも羽生さんが相手だと違ったのです。ピッタリ追走されて、こちらが必然で間違えているような錯覚に陥りました。羽生さんだけは不利になっても逆転を起こせる。それは当時『羽生マジック』と呼ばれていて、『羽生さんは特別なものを持っている』という気にさせられましたね。—『証言 羽生世代 (講談社現代新書)』大川慎太郎著

実は勝敗やタイトルにこだわらず真理の研究をしている

 谷川浩司は、羽生の将棋の真理を探究したいという好奇心こそが強さの秘密であると語っている。

谷川:あと羽生さんは誰よりも好奇心が旺盛で、それが羽生将棋を支えています。節目や急所ではもちろん勝負に徹してこられますが、実は勝敗やタイトルの数にはそれほどこだわっていない。将棋の真理を追究して、拮抗した中・終盤の戦いが長く続くことを楽しんでいるような感じがあります。相手が悪手を指すと羽生さんが嫌な顔というか、ガッカリするという話がありますよね。ここからがおもしろいところだったのに、と(笑)。こちらは負かされたうえに、さらに恥ずかしくなるということがありますね。—『証言 羽生世代 (講談社現代新書)』大川慎太郎著

将棋ソフトが無い頃から、右玉の優位性にただ一人気づいていた

 右玉(みぎぎょく)は、将棋の戦法のひとつで、 飛車を右に置く居飛車でありながら、玉将もまた右に置くものである。当時、将棋界で評価の低かった右玉を羽生はこだわって使っていたという。渡辺は、羽生が右玉にこだわっていた先見の明を将棋ソフトが導入されて気づいたと語っている。

「右玉のような、玉が薄くてもバランスを重視するような作戦は誰も見向きもしなかった。いまはコンピュータの将棋ソフトの影響で右玉の評価が上がったので、若手棋士も指しています。でも羽生さんはソフトがなかった当時から、右玉の優秀性についても一人だけ気づいていたんですよ。」—『証言 羽生世代 (講談社現代新書)』大川慎太郎著

なぜかチェスでも国内トッププレイヤー

 羽生がチェスを始めたのは初の同時七冠王となった頃(25~26歳)だったと言う。そこから忙しい合間を縫い、2007年にはプレイヤーの実力を表すレーティング値がなぜか国内最高値となり、日本国内で最も強いチェスプレイヤーとなりました。
 同世代棋士の森内は、羽生のチェスの強さに衝撃を受けたことをこう語っている。

森内:1番衝撃を受けたのは、郷田さんとの棋王戦を3勝1敗で防衛した(平成10年)その翌日に、百傑戦(国内の主要チェス大会のひとつ)に出場したことです。それだけでも驚くのに、なんと優勝してしまったんです。羽生さんにとって初めての大会出場だったのにですよ。

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